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〜有限の…〜 2−03

「…悪趣味で結構。
 貴様の、山の天気の如くの目まぐるしい表情を眺めるのは久方ぶりだ…と、思ったのだ。それだけのこと」
「………」

 またダイレクトに返ってきた、思考への答えに、あたしはことばを失ってしまった。

「やだ…なー」
 やっとの思いで呟くと、
「悪いのか?」
 拗ねたような口調。顔が赤くなってくのが、自分でもわかる。


 本当のこと…かもしれない。言われなきゃわかんなかったけど。


「…別に」
「フン」
 あたしの恥ずかし紛れのひとことに、ネウロが笑いながら鼻を鳴らす。
 あたしも、笑う…


 不思議だな。
 さっきまで、ヘンなことばかりブチブチ考えてたのに。

 意外に現金なんだな。あたしってば。


「…して、ヤコよ。事務所を出て随分経つ筈だが、なにゆえ今だにその格好なのだ?」
 変わらずまじまじとあたしを見ながら、ネウロが訊く。

「……う」
 あたしはまだ制服姿のまま。ネウロの言う通り、家に帰って来てけっこう経つし、普段のあたしなら帰宅してすぐに着替えるんだけど。

 全く…ネウロってば、ヘンなトコばかり抜かりなくツッコんでくる。

 そんなん答えろってのか。

 事務所を出てから、もう何だかいろいろムシャクシャしてて、家帰っても着替えることなんて思いも及ばなかったことを、答えろってのか。


「…まぁ、どうでも良いが」
 ふっ…と笑みをこぼして、ネウロはいったん視線を外した。
 そうして、少しだけ間を置いて、中指であたしを招く。


「え…」

 ネウロが招いて…呼んでる。
 ベッドに座ってるネウロの傍、に…?


 そんな、いきなり…って思うのは仕方ない。もうずっと、そうゆうカンジで傍に寄ったりなんて、してないんだから。しかも、ベッドに…!

 けど、逆らったって意味はないし、理由もない。あ、恥ずかしいってのは、理由になるのかな。


 何故か擦り足でベッドに歩み寄る。立ち止まって、もじもじしてしまう。
 ネウロはそんなあたしを見上げていたけれど、短いため息を吐きつつ、腕をのばした。首根っこを掴まれて、ぐいっと引き寄せられる。





「…どうも、あれに見覚えがあるのだが」

 座らされて抱き寄せられて、久しぶりのドキドキに戸惑ってるヒマもなく、ネウロが指差す方向を見て……焦りで鼓動が増した。


 ネウロが指差す先の壁には、以前ネウロが見つくろって買ってくれた服一揃えが、ハンガーに掛けられて下がってる。
 今は、あたしが故意にタオルを掛けて覆って、ほとんど目隠ししてあるんだけど、ネウロは目敏く見つけてしまった……

 けど、見覚えがあると言った以上は何も言わないのが、かえって恥ずかしくって。



「………いつでも着れるように、スタンバってるだけ…だよ」
「………」
「何しろ、誰かさんが、いつまでたっても、着ていい…って言ってくれないんだもん。
 もう、あの服にはふさわしくない季節になっちゃうのに、さ…」
「………」



 あれを買ってもらったのは冬のはじまる頃だった。
 今はもう、冬は終わろうとしてる。確かにネウロは、今年だけじゃなくいつでも着れるって言ってたけど、シーズン中一度も着れないのはつまんない。

 …その時を楽しみに待って、いっつも壁に下げてた…んだけど…ね









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