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〜有限の…〜 3−01
我が輩がどれだけ苦心しているかなど、貴様は知りもしない
だが…良いのだ。それで……
気を失ったヤコは、くたりと力無く、辛うじて我が腕に支えられている有様だ。
我が輩の腹にぴたりと付けた背は、頼りなく儚い。過ぎる程に。
意識がないのを幸いと、腕を回しきって尚余る小さな身体を固く抱き締めれば、それは尚更強く感じられ…
反して、身体中は朱に染まり、熱い。気を失い尚、存在を誇示するが如く。
ヤコがいつぞや寝込んだときに感じたのと似ているようでいて、質の全く違う熱に、いとも容易く揺さぶられ冷静さを欠いてしまう自分を知る。
いや…
違う。
とうに知り、危惧していたことを改めて痛感させられたに過ぎないのだ…
現に、今も……
これは感覚を受け入れやすい敏感なからだだということは、以前の生ぬるい触れ合いで既にわかっていた。
探る程に研ぎ澄まされる感受の甘い声は、この我が輩すらも容易く惑わし、理性の離剥を触発する。
…それもまた……
思い返すだけで、脳が一瞬くらりと揺らいだ心地が。
それはまさか、眩暈というものか。そんな筈はない。我が輩には決してあり得ん、あってはならない事象だ。
錯覚に…違いない。
すぐさま矛盾に気が付く。
それは、たった今までしていたことも過去の感情をも、否定していることと同意だろう、と。
だが、そんなことを我が輩は認める訳にはいかないのだから…せめて。
錯覚に過ぎんのだと思い込むことにする。
腕の中、ヤコの息が荒い。我が輩にはわからんが、ひ弱な体に湯の浸かり過ぎは悪影響を及ぼすものか。
腕をのばし、流れ続ける湯を止める。タオルを取らせる目的で蟲を飛ばし、漸く立ち上がった。
湯が滴り落ちる音は聞こえないものとし、あられもないヤコの姿からは故意に視線を逸らす。
ヤコが気を失ってくれて良かったものだと、再び思う。
何故なら……
ことを不首尾に終えたのは幸いだった…
我が輩は確かに思っているが故に……
タオルを被せただけのヤコを部屋に運びこみ、ベッドに横たえる。
薄っぺらい布地は目隠しとしては甚だ頼りない。我が輩は自分の上着を被せ、タオルを引き抜き取り去る。湿り気の感触が煩わしい、ヤコにまつわりついていたそれを、放り投げる。
横たわるヤコ。肌に触れているのは、我が輩の一部。
それで良いのだと、漸く、いくばくかの満足感を得る。
……こんな、ときにまで……
思考はおろか、些細な行動にすら、矛盾を孕んでいる。
即ち今の我が輩は…
迷いが具現している滑稽な有様、ということ。
「………」
ヤコが微かに身じろぐ。次いで、ゆっくりと瞳が開いた。
我が輩はどう声をかけたものか判らぬまま、我が輩を見つけ、こちらに首を傾けるヤコを、ただ見ていた。
「ネウロ…
…ごめんね」
開口一番、訳の解らぬことを囁いたヤコは、口にしてから、折角赤みが引いた頬をまた赤らめた。
「…?」
我が輩は、ヤコが何故謝罪を口にするのかわからずに、また、言葉に対し何を口にすれば良いかも、わからずに……
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