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〜有限の…〜 1−02
『謎』の有無に関わらず、さほど大きな事件に巻き込まれることなどない近頃のこと。弥子は学校が終われば事務所に戻ってくる。弥子とネウロが顔を合わせない日などないのだ。
日常に変わりはなく、共に在るのが当たり前という認識もまた、全く変わらない。
だが……
ネウロがふと気付いてみれば、色めいた触れ合いはほぼ皆無となっていた。出逢ってから続く虐待もどきの触れ合いは変わらずにあっても。
突っ込みつつあしらう弥子の慣れた態度もまた、変わらないにも関わらず。
少女を求める魔人の気持ちが薄れたという訳では決してなく…
少女もまた殊更に避けている訳ではなく…
それは明らかに、過日の事故の直後…弥子の退院以来のこと。
ネウロは日が経ってからようよう思い至ったようだが、勿論あかねはとうに気付いていた。
ふたりを眺めるのが趣味の一つである秘書のこと、気付かない筈もなく。
―弥子ちゃんが早く帰りたがるようになったのはそれからよね…―
…とも、あかねは思う。
事実の捉え方は魔人と秘書では微妙に異なった。さしもの魔人でも『男』である以上、主観と客観では認識に差異が生じるものなのかもしれないが。
―お互いにとってお互いがとても近しい存在であるっていう距離感が、一度途切れちゃった触れ合いを何とはなしに遠退けるものなのかもね…
ネウロ様のことだから、それだけじゃ、なさそうだけど。
それにしても、つまんないなぁ……―
…と、あかねは密かに考える。
いつもは考えるだけなのだが……
『ネウロ様ご存知でした?』
あかねは唐突にネウロに語りかけた。
「…何をだ。『ご存知でした?』だけではわからん」
にべもない返事に、ネウロの不機嫌さを感じ取り、苦笑するあかね。
『それはすみません。
弥子ちゃんのことなんですけど』
「…? ヤコがどうかしたのか」
魔人の反応に、今度は微笑する。無論ネウロにはわからないのだが。
『あのですね、弥子ちゃんの頭の傷跡に、五百円玉位の……えーと…
……』
書き躊躇うあかねの様子を眺めていたネウロが一言、
「ハゲか?」
と言うと、
『そうです。実は、ちょっと前までそれがあったんです。もうすっかり良くなってるんですけれどね』
「ほぅ…」
ネウロは僅かだが驚いた。
「…それは知らなかったな。ヤコも貴様も何も言わんとは…惜しいことをしたものだ」
『だから私、教えなかったんですが』
あかねの綴る文字…言葉に、ネウロは失笑。
あかねはなんとなくほっとしたものだった。
『でも私も、弥子ちゃんから聞いた訳ではないですよ。トリートメントしてもらうから、つい見つけてしまって』
「……」
『それからはその度に、注意して見てたんです。だって事故だったのだから仕方ないとはいえ、女の子として気の毒じゃないですか。
弥子ちゃんもすぐに気が付いて、ずいぶん気にしてたみたいで…髪の分け目や髪留めの位置とかを微妙に変えてたんですけど、今日は元のようになっていました。私、とても安心しました』
「……あれが、そのようなことを気にするのか」
ネウロの意外そうな問いに、あかねはすぐさま書き付けた。
『当然ではないですか。女の子なのですから』
「………」
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