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〜忘却と再構築〜 35
強そうでいて実は脆く儚いヤコの精神を、図らずもこの我が輩が支えているということならば、それはそれで構わんか……
「最初はあんなに僕を怖がっていらしたくせにね、先生?」
「それ、言わないでよぅ。意地悪」
「仕返しせねば、僕の流儀に反してしまいますので」
「意地悪、意地悪ー」
「何を仰る。この程度でそれでは、この先いったいどうなさるのです。ほんとうの僕は怖いですからね?」
「こわくないもん、全然」
「言ってることが矛盾しています、先生は」
「ネウロさんなんて、こわくないもん」
「ほう…」
以前と変わらん戯れだ。違うのは、互いの言葉遣いだけ……
「……ん…っ」
重ね触れ合わせる唇に、遠慮も躊躇も要りはしない。それもまた、以前のままに。
必死にしがみつき受け入れるヤコから漏れる、声無き声ですら…
応え方を呑み込むのが、やはり、早い。
殊更にゆっくりと顔を離し覗き込んでやる。ヤコは湯気でも立ち上らせそうに顔全体を赤らめ、
「やっぱり、ちょっとだけ、こわい…かな」
我が輩は、笑ってしまう。
「だから、言いましたのに…」
はじめから…
出逢いからやり直し、これまでふたりで築き上げてきたものを再び教え込み積み上げる、今のこのとき。
それがかりそめであろうがなかろうが…
……再構築も、なかなか悪くない……
「……おなかすいた」
色も綾もないことばに気が付いてみれば、外の風景には、もう夕闇が迫っていた。
「そういえば、そんな時間ですね」
「ごはんの時間?」
ヤコは目を輝かせる。
…まだまだ子供、か。
病院から出される食事だけでは到底足りないヤコのこと。それらよりも、我が輩が調達してきた諸々の食い物に目を輝かせた。
「食欲が戻られて何よりです」
実のところは呆れているのだが、まぁ見慣れ過ぎた光景だ。言及はしないでおく。
「ネウロさんは、やっぱり食べないの? 食べないでも平気なの?」
「気になさらずに」
「………」
そういえば…このヤコは、我が輩の素性…魔人である事実は知らぬのか。
アカネのことといい、ヤコにいっぺんに知らすには『現実離れ』している、事実という一筋縄ではゆかぬ難題が、この後山積であることに、我が輩は漸く思いが及ぶ。
まあ、なるようにしかならんのであろうが。
「………」
食事後、随分放ったらかしにしていたアカネと戯れていたヤコだったが、しばらくして大きな欠伸を漏らした。
「もうお休みになりますか?
今日はお疲れになったでしょう?」
「うん…」
素直に頷くヤコ。
本当に、今日はいろいろあったからな……
「ネウロさんは、寝ないの?」
眠たげに訊くヤコは、我が輩の手を握り離さない。
「…先生がお眠りになったら、僕も休ませて頂きますよ」
「そか。
…ありがと。
ネウロさん、大好き」
少々、ことばを失う。
そして…躊躇う。
「………
僕も、ですよ。
先生………」
口にした自分に愕いたものだが、ヤコに気付かれることは、なかった。
「どこにも、いかないでね。
…あたしをおいて……」
一瞬だけ、掌を握りしめられ囁かれたひとこと。
眠りに落ちる寸前に、不意に心細くなったものか……
「……貴様もな」
我が輩は思わず呟いたが。
それは、ひとりごとに過ぎなかったらしく……
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