[携帯モード] [URL送信]

main storyU
〜忘却と再構築〜 34

 ヤコは一瞬だけ驚いた様子を見せたが、おとなしくベッド上の身体をずらし、近寄り寄り添う。我が輩がヤコを抱き込みやすいよう。

 抵抗のひとつもなく…密かに安堵したと同時に、たったの一日二日でここまで慣れ親しむようになったことが、妙にむず痒くこそばゆい。


 身体を預けたヤコは、じっとこちらを見上げている。

 我が輩が着けた髪留めに指を添え、
「これはなに?」
 小首を傾げ、訊く。

「…先生が御愛用されていた髪留めですよ」
「へぇ…似合ってる?」
「それはもちろん」

「えへへ」
 ヤコは、それは嬉しそうに笑い、そしてまた我が輩を見つめる。

 顔を寄せてみるのだが、無邪気な眼差しは変わらない。
 何とも…どうにもやりづらいではないか…

 額に口付けながら、
「…こういうときは、目を閉じて頂かないと…」
「………」


 本当に、我が輩はいったい何をしているのやら…

 思い知らせてやる筈ではなかったのか

 …何を…?


 思い出せない。全く、仕置きにも何も、なりはしない。


 あまりに我が輩らしくなく、情けないことこの上なく、

 可笑しくも、あり…


 ヤコと共に在ると…この、魔人たる我が輩には思いもよらない珍妙な経験をし、様々な感情を知らしめられるものだ。




 軽く唇を重ねた後、ヤコは笑う。余程おかしいのか、震える声で言った。
「…でも、こーゆーことするのは、別なんだ」
「はい?」

 言っていることが、よくわからん。

「さっきもだったけど、“ほんとの”ネウロさんじゃなくっても、キスはしっかりするんだなって」
「………」


 なんと、生意気なことを…


「…あまり僕をからかうものではありません」
「からかってなんかないよぅ」
「…どうだか。
 僕がからかわれたと思うのだから、否定なさっても駄目ですよ」
「…なんか…言ってること、ムチャクチャじゃないかなぁ?
 ネウロさんてホントにドSなんだね…」


 …などと言いつつも、いつの間にか胸元を掴んでいた指先の力は強く。見上げる瞳は、緩やかに閉じられる。

 記憶の何処かに残っているせいなのか。飲み込みが早いものだな……



 …我ながら現金なのだとは、わかっている。結局は、赦してしまう。

 どのような状況に陥ろうと…
 この我が輩を好ましく想い、縋る…この女の気持ちには負けてしまうのだ……



「前の私も、こうするの…こうしてもらうの、好きだったのかな? やっぱり」
「僕は、そう思わせて頂いておりましたが」

「そか」
「?」

 我が輩の背に細い腕が回る。

「ネウロさんがいてくれて、よかった」

 微かに囁かれた声が、顔を押し付けられた胸に響く。
 我が輩も、改めて抱きしめ返してやった。子供をあやすように、背中を軽く叩きながら。

「嬉しいことを言ってくれますね」


「…ネウロさんがいてくれなかったら私…今でもこわがるだけだったと思う。
 退院するのは、今でもこわいよ。
 でも、前ほどじゃない。ネウロさんがいてくれるんだもん。
 …いつもそばにいてくれるひとがいるって、いいよね。
 前のあたしも…そう思ってたのかなぁ?」


 それは…そのさまは…

 まるで子供のように…エゴを多分に含んだ言葉では、あるのだが……







[*前P][次P#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!