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〜忘却と再構築〜 27

「そんなにもお笑いになるようなことなど、何一つ僕は言っておりませんが? 先生」

「だって…おかしいんだもん」
 ヤコは笑い転げながら言う。



 全く…
 我が輩の同じ言葉遣いと態度に警戒心を露わにし、頑なであったのは、どこの誰だというのやら……



 笑い続けるヤコと、それに突っ込む我が輩。たわいないやりとりを、母親は目を細め…そしてアカネはこっそりと眺めていた。




「弥子、良かったわね」
 ヤコの母が言う。

 何が良かったというのやら、さっぱりわからんが、
「うん」
 ヤコは頷く。言葉の意味をわかっているのかどうか…

「…ここに着いてみたら、弥子達がいなくて、ちょっとびっくりしちゃったけどね…」
「……」
 何となく含みを持たせたように感ずる言葉ではあった。が、これということは何も言ってはいない。
 …にも関わらず、ヤコは下を向いてしまった。


 そういえばヤコは、我が輩の手を取ったままだ。今は毛布の下、離す気配はない。母親からは我が輩の身体で隠れて見えないとはいえ…


 そんなヤコの様子が非常に愉快で、我が輩は笑う。
「診察が終わった後、先生と散歩に行っておりました」
「…そう…
 弥子、屋上は寒いけど、気持ち良かったでしょう?」
「…うん」
「………」


 屋上に居たことまでは、言っていない筈だが……


 また何かを含んだような笑みを浮かべた母親は、我が輩の位置とは逆のベッドサイドに歩み寄る。
 母親を見上げたヤコは、赤い顔をしている。自分を隠せない様子が、どうにも可笑しい。

 具体的に何も言われてはいないのだから、堂々としていれば良かろうに…
 そのような様子もまた、悪くはないが。

「詳しい経過については、お母様にお話するということでしたが、非常に怪我の治りが早いと伺っております」
「そうなの。お母さん、今、そのお話を聞いてきてね。
 弥子。明日退院出来るわよ」
「……そ、か…」

 ヤコは突然に、不安げな表情となった。

 掌に微かな力を感じた。ヤコが毛布の下で我が輩の手を握り締めている。

「………」





 少しの間、我々はたわいない話をしていたのだが、
「あのね、慌ただしくて悪いんだけど…
 お母さん、入稿で忙しくて、これから仕事に戻らなきゃならないのよ。
 明日の弥子の服を用意しに家にも帰らなきゃだし、今日はもうここに戻れそうもないの」
「そうかぁ…」
「それで、ネウロ君…」
 と、母親はベッドを挟んだ正面の我が輩を見る。

「…承知しました」
「すみませんが、よろしくお願いしますね」



 漸く終わる入院生活の最後の夜に付き添うことを、母親に託される……


「その前に、身体拭いてあげるからね。
 さ、ネウロ君は、出てて出てて…!!」


 あれよあれよという間に、病室を追い出されてしまった。
 …本当に、慌ただしいものだな…



『ネウロ様、本当…信頼されてらっしゃいますね』
 アカネが、心から感嘆したように云う。

「当然だ」
 我が輩は言いはしたが…

 昼夜問わずヤコを連れ回していた我が輩のいうことでもなかろうが…先程の語調から、母親は何らかのことを知っているように思えた故に…

 実は内心、少々驚いていたのだが…な








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あきゅろす。
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