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〜忘却と再構築〜 23

「そうですか?」
「うん、優しいよ。すごく。
 今だって、ネウロさんこそ寒い筈なのに、こうしてくれてるんだもん」
「僕は、さほど寒さを感じない体質なので、たいしたことはないのです」

「そうなんですか…
 でも……」

「…でも…?」


「私、ずっと考えてたんです。
 それを、知りたいんです」



 我が輩には…
 ヤコが何を言いたいのかが
 何を訊きたいのかが…

 やはり…わからないのだ……



「何を…?」

「ネウロさんは…
 私のことを、『先生』って呼んでたんですか?
 …今みたいに…」
「………」


 思いもかけないことば。


 ヤコよ……

 そのような問いに、答えられるとでも思っているのか、この我が輩が……



 だが、我が輩は唐突に…

 ヤコが母親や友人から何を聞いていたものか…ある程度の予測は出来れど、その内容を実は把握していなかったことに気が付いたのだ。



「では、逆に僕からも問わせて頂きますが…
 先生は、お母様やお友達に、何をお聞きになったのです?」

「質問に質問でかえすの?
 そんなに私のきくことって、ネウロさんにとって答えにくいことなんですか?」








「……ヤコ」


―それほどまでに、我が輩を困らせるか…―


 そう思い、そして思わず

 素での呼び名が口をついてしまっていた……





 ヤコは目を丸くした。

 それも、当然であろうと思わされた。




 しばしの沈黙の後…

「私、おかあさんにもかなえちゃんにも…」
 ヤコが、ひとりごとめかして語り出す。

「ネウロさんは、私の『助手』だけど、『彼氏』でもあるんだよって、聞いたんです」
「………」
「でも…私には、かれしとかかのじょとか、全然意味がわかんなかったの」
「………」



 ああ…

 だからヤコは…
 友人が『資料』にと持ってきた本を、寝る間も惜しんで読んでいたのか……


「かなえちゃんが、参考にって読ませてくれたのを見ても、わかんなかった。
 だって…」


 ことばを途切らせ、ヤコは我が輩を真っ直ぐに見据える。

「…全然違うんだもん」

「……何が、違う、と?」


「………またきくけれど、ネウロさんは…
 『私』の知ってるネウロさんは、ほんとうは……」



 この小娘は…


 我が輩は、もしや……




 巡り至った、結論には満たぬ思いに突き動かされ、ゆるりと歩み寄る。
 ヤコは、ことばを途切らせ、ほんの少し緊張を露わにする。




 我が輩が考えていたことは、もしや……

 どこまでも頑なでしかない、思い込みに過ぎなかった…とでも…いうのか…?





「……ヤコ」

 手をのべ、頬に触れる。ヤコは身体の強張りを隠しはしないが、逃れようともしない。




「…そう、呼んで、たの?
 私のことを…」
「ええ、そうですよ」
「なん…で…」
「………」



―なんで、私を、そう呼ばなかったの…?―




 そのようなこと、ひとことで言い顕せる筈がない。



 友人から借り受けた『資料』とやらなぞで、我々の過去の関係が理解出来る筈もないのだ。





 思い出せないにも関わらず、我が輩とのことを理解しようとするヤコの言動は非常に好ましい。

 今の我が輩にはそれだけで感情を逸らせるに充分で……



「ネウロさ……」
 ヤコは、うっすらと涙を浮かべ、微かに呟こうとする。

 それを、我が輩は遮ってしまう。







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あきゅろす。
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