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〜忘却と再構築〜 18

 一時的にではあろうが初期化されてしまったヤコの精神に…

 過去、そして、それに基づき培われた人脈なぞの、厄介で余計なだけの様々など…刷り込ませるわけにはいかないのだ。


 虚しいあがきであろうが何であろうが…








―随分前に…

 このままじゃ弥子ちゃんが離れていってしまいますよって、ネウロ様に申し上げたけど…

 本当にそうなってしまうなんて、こんな形で…だなんて、思ってもみなかった…―


 奇妙な程にはっきりと伝わった、アカネの意志。

 アカネも漸く落ち着いたか、冷静になったようだ。
 考えていることは、極めて気に喰わないが。



 アカネが我が輩にそう進言した時のことを、我が輩はよく覚えている。


 そんな筈がないのはわかりきっているのに…
 気にせずにはいられず……



 人間共の言う『因果応報』がこれなのだとは、思いはせん。
 そのようなこと、むしろ笑い飛ばしてやる。



 だが、巡り至る今現在に思いを馳せれば

 それもこれも何もかも……


 魔人である我が輩にもどうにもならぬ知外のちからは…確かにはたらいている…とも、結論づけられるか。



 ……馬鹿馬鹿しい……






 電話が再び鳴る。今度は我が輩の携帯だ。


「はい」
『…ネウロ君?』
 電話をかけてきた相手は、既に判っていた。
 ヤコの母親だ。

「はい。お仕事お疲れ様です、お母様」
『ネウロ君こそ、弥子をみてくれてありがとう。私、さっき病院に着いたのだけど、ネウロ君がいなくてちょっと驚いたわ。もしかしたら、叶絵ちゃんが来ている間、気を使ってくれたのかしら?』
「………」
 我が輩は、答えなかった。

 それをどう捉えたものか…我が輩にはどうでも良いのだが…ヤコの母親は言う。

『今日のところは、もう大丈夫ですから。ネウロ君もお疲れでしょう? 今日はゆっくり休んで、また明日お願いしますね』
 と。

「そうですか…
 では明朝またお伺いします」
 我が輩は無難なことばと口調で返す。


 どのように言葉を繕おうと…
 それは我が輩にとって、我が輩をヤコの傍から退けようという思惑に他ならないのだが…

 何も言えず、また…僅かにでも我が思惑を察せられることなぞ、我が輩が我が輩自身に許すことは出来ず……




『そうそう、明日抜糸なのですって。それから、もう一度検査をして、問題がなければ…弥子は退院出来るそうですよ』
 ヤコの母は嬉しそうに語り、
『では、また明日ね』
 と、電話を切った。



 例え身体の傷が癒えようと、肝心の記憶に生じた障害は変わらぬというのに…

 何故そのように楽天的な口調で…安心しきったように言えるのか…

 我が輩には解らん。





 我が輩は、アカネを秘書デスクに持って行き、壁の本体へと戻す。

『今日はもう行かれないんですか?』
 アカネが揺れながら我が輩に問うた。

「母親が戻ってきた。我が輩が行く意味なぞ、最早ないということだ。
 …また明日だな」

『………』



 ふらふらと力無く揺れるアカネが、極めて残念に思っている程度のことは解っている。
 それこそ、煩わしい程に。



 我が輩はトロイに戻り、脚を投げ出す。することなぞ何もない。
 考えることも…何もない。


 アカネはしばらく、パソコンと向き合いメールの返信などしていたようだが、すぐに飽いたものか、何も云わぬまま壁紙の向こうに潜り込んでしまった。






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あきゅろす。
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