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〜忘却と再構築〜 16

 好ましい言葉
 好ましい状況

 ヤコはいとも無邪気に笑っている…


 にもかかわらず

 我が輩の内にじわりと浸食したままの、不可解で不愉快な負の感情は、拭い去れず……


 そしてそれは、今のアカネも同様であるに違いないのだ……






 それから…
 我が輩はヤコに食事を摂らせた後、話相手をしてやる。

 話の内容は他愛ないものばかりであったが、ヤコはヤコなりに、自分の知らない自分を出来る限り聞きたいものらしく。
 我が輩は言葉を選びながら話し、問いに答える。我ながら根気強いものだと思う…




 そうした中で、時折……

 ヤコが我が輩をちらりと、あるいはまじまじと見て、妙な表情を浮かべたのが気になった。

「ネウロさんて…」
 そら、また何か言いかける。何度目のことであろうか。

「何でしょうか?」
 我が輩は優しげな声音で聞き返す。
 だがヤコは、決まって下を向き、
「ううん、なんでも…ないんです…」
 言葉を途切れさせるのだ…

「………」



 ヤコのこころを、今、読むことなど出来ん。元々、随意に起こり得る事象でもないのだ。

 今のヤコは、我が輩に何を思い感じ、そして何を言いたいのか……

 読み取ることも、聞き出すことも、何もかも叶わない。
 辛うじて解るのは、ヤコが言いづらいことなのであろう…
 それだけ、なのだ。





 ヤコが先ほど、今日も友人が見舞いに来るのだと言っていたことを唐突に思い出した我が輩は、
「申し訳ありませんが先生。僕は病室を少々留守にさせて頂きます。少しの間1人にさせてしまうことになりますが、大丈夫ですか?」
 ヤコに言い聞かせるかのように、了承を求める。

『1人にさせてしまう』
 …とは言ったものの、そのような心配はない。
 その者がこの病室に向かい近付いてくるのがわかっている為だ。

 必要外の余計な人間に会って話をする気には、とてもではないが、なれん。我が輩が場を外すのは、それだけの理由。

「うん」
 ヤコは小さく頷いた。



 昨日から決まっていたことらしいのだが…邪魔されたと思うしかない……


 病室を出て程なくして、ヤコの友人が病室に入ってゆくのを見る。


 危ういところであったが……


 今…判った。

 たった今病室に入っていった小娘もヤコを想っていたが故…
 我が輩は、近付いてくる気配を察知したのだと。


 だとしたならば、この小娘もまた…
 ヤコが、自分だけは忘れはしないと思い信じ…あっさりと裏切られたのであろうか…?












「…だから、行ったところで無駄だと言ったのだ」

 事務所に戻った我が輩は、携帯に貼り付いたまま、泣いているように髪束を震わせ続けるアカネに言う。

 実際、泣いているらしいのだが…


 ヤコに愛玩されたのは、嬉しくはあったものの、同時に、真逆の思いを強烈に味わわされたのが、相当こたえたようだ…やはり。


『申し訳ありません。でも…』
 ようやっとという有様で、アカネは携帯に文字を打ち込む。

「あぁ、いわんでもいい。湿っぽくなり過ぎてかなわん」

『すみません…』

「それより…
 貴様がもう、あのようなヤコを見たくないというのならば、もう連れて行きはしないが、アカネはどうしたい?」


 意地の悪い問いだと、我ながら思っている……







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あきゅろす。
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