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〜忘却と再構築〜 15
「それより、私が気になったのは、けいたいより、こっちなんだった」
ヤコは、サイドボード上の携帯に張り付き、ストラップに擬態しているアカネを指差した。
「…これにくっついてる三つ編みは何ですか?」
「ストラップというもの。携帯電話の飾りです」
「……ふぅん……
なんだかかわいくて、ネウロさんらしくないって思っちゃったんですけど…」
「そうですか?」
我が輩は笑う。
これを可愛いと思えるのは、ヤコ位ではなかろうか…なぞと思わされた。
ともあれ、我が輩らしくないのは当然だ。アカネは外出する際、ヤコの携帯が定位置なのであり、我が輩の携帯に付くなどは初めてのことなのだ。
「先生は覚えておられないようですが…
先生は、これがいたくお気に召しておいででしたよ」
「えっ…そうなんですか?」
「ええ」
「…さわっていい…ですか?」
「もちろんですとも。
そうそう、これは不思議なストラップでしてね。先生が触って下さる時だけ、まるで喜んでいるかのように動くんです」
「え?
…ホントですか?」
手をのばしかけたヤコが、我が輩の言葉に手を止め、笑う。
困ったかのような、あまり見ない笑みだ…
「…今の私でも、動いてくれるのかなぁ?」
「動きますとも。先生はアカ…これを可愛いと言って下さったのですから」
わざわざ我が輩がそう口にしたのは、暗にアカネに動く許可を出す意味合いがあった。
アカネならば、察することが出来るに違いないからな。
「わ、なんか本物の髪の毛みたい」
我が輩の差し出す携帯のストラップ…アカネに、おずおずと手を差し伸べたヤコ。やはり躊躇いがちに、そしてくすぐったそうに揺れ動きだすアカネの様子に、はじめこそおっかなびっくりだったが、すぐに頬を綻ばせた。
「ホントだ。ホントに動くんですね。まるで生きてるみたい」
我が輩はそのまま携帯をヤコに預ける。
「でも不思議。どうして動くのかなぁ?」
「…ネコじゃらしのようなものだと思って頂ければ」
「ふーん」
こじつけにも程があり、説得力が皆無であるのは承知していたが…ヤコは何故か納得していた。
気に入ったものが、自分に対してだけ動く…それだけで十分のようだ。
だが…
それはアカネにとって、どう受け取れることなのか。
あれほど、自分を忘れる筈がないと信じていたものを…
抱かれる好意は、以前のように、対等な『生きた者同士』に対してではなく、『モノ』に対するそれなのだという現実は。
極めて罪深い“忘却”を改めて思い知らされる、現実は……
魔界具を通じて僅かだが共鳴し、流れ込んでくるアカネの感情は、喜びと、その他が複雑に入り混じっているように感ぜられた。
が、贅沢はいうな…と思う。
我が輩なぞ、指の一本触れることすら叶わぬものを。
何にせよ、アカネに対しては素直になる。それだけは以前と変わらぬヤコのようだ。
ヤコはアカネに頬ずりをしつつ、訊く。
「もしかして、名前があったりしますか?」
「ええ、もちろん。
その名を、先生はいつも呼んでおられましたよ」
「何て?」
「『アカネ』と…ね」
「あかねちゃん…かぁ。
エヘヘ、名前がわかると、ますますかわいいなぁ」
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