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〜忘却と再構築〜 11

 事務所は事実上開店休業状態だった。
 隠れみのであるヤコがいなければ、『謎』を孕む依頼には手を出せず、我が輩は食事にもありつけない。
 …が、幸いというべきか、今事務所には、そのたぐいの依頼はなく、手元にある依頼といえば、下らぬ親娘のもめ事程度だった。

 普段ならば決して、我が輩自らが動きはしない事例…ヤコとアカネ、そして吾代を動かせば十分である依頼。


 ……僅かでも、退屈しのぎ、気晴らしにはなろう……



 依頼人に連絡をとり、煩わしくうるさい『お願いします』の連呼を適当にやり過ごし、電話を切ると、

『珍しいですね』
 アカネが驚いたように書き付けた。


「…そうでもなかろう。
 気は乗らんが、仕事には違いあるまい。
 また留守にする。あとのことは頼んだぞ」
 言い置き、我が輩は事務所をあとにした……





 この我が輩に、地道な調査は向いていない。『謎』を孕まぬならば尚更。

 依頼人から預かった写真に写る、やたらけばけばしい女…どう見ても成人していようが…の人相を虫に覚えさせ、辺りに放つ。





―親とは、そういったものか―


 それは、我が輩が率直に感じたことだ。


 既に大人である者に、いつまでもかかずらう愚かな父親の心理も、大事に至らぬと言われても尚、心痛め涙をこぼしたヤコの母の心理も…親心として大差ないのかもしれない…

 ……と。





 ともあれ、捜索の成果はすぐに顕れた。
 思い返すのも癪な程に、下らない結果でもあるのだが。

 何というはないのだ。実に。

 友人、そして複数いるという『彼氏』の部屋を、夜毎順繰りに巡っていたのだという…そのようなオチ。

 その上、父親が不在の折を狙いすまし帰宅し、着替えなどを持ち出していたというのだ…
 それでは、母親も共犯と言われても、反論など出来ん。


 それに気付かずに、父親がわざわざ我が事務所に素行調査を依頼するのだから、馬鹿馬鹿しいにも程度があろう。



 この後、父娘間、そして夫婦間で風波の一つや二つ立ちそうだが、知ったことではないか……
 我が輩は、娘の動向、今の居場所を掴み知らせるだけだ。




『早かったですね』

 事務所に戻ると、アカネが驚いたように出迎えたが、それも一瞬のこと。すぐに、寂しげに髪束を垂れてしまった。

 傍にヤコの姿がないことがつらいのだろうことは、容易に察せられた。

 アカネもまた、女らしく感情に率直だ……



「下らなくつまらん依頼だったからな。
 さっさと片付けてきたのだ。
 オチまでも、実につまらん。ヤコ達奴隷にこそ相応しいレベルだと、つくづく思わされたものだがな」
 知らず愚痴めいてしまった我が輩の言葉に、
『でもそれは、ご依頼がきた時点で簡単に判ったことではないですか。どうして今日に限ってネウロ様みずから?』
 抜かりなく突っ込むアカネ。


「……さあな」

 我が輩にも、よくわからん…









―三日目…―

「おはようございます」

 病室を訪れれば、ヤコはまだ眠っていた。身を縮めからだを丸くし……

 安寧の中にいるのだろうか?

 我が輩やアカネの心を散々惑わせ煩わせて、この女は……


 だが不覚にも

―せめて夢の中では…―

 そのような詮無いことを一瞬…考えてしまった。







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