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〜想い祈り唄う〜 02
「…んー…。アイツが理不尽な嫉妬かますのは、いつものことだしなー」
何やらブツブツ呟いている、探偵さん。
助手さんの気持ちがわかるといっても…探偵さんのそんな様子は、小気味良くてくすぐったくて…
とてもとても愛おしい……
見ていれば、容易に解る。
あぁ……
探偵さんは…この娘は…
恋をしているのね……
そういえば、そんな噂もちらりと耳にしたような…お相手はわからないとか、何とか…
助手さんは人外の化物なのだと探偵さんは言ったけれど…
この世に等しく生を繋ぐ者に、そのような垣根なんて、ないのだわ……
私のこころを引き上げてくれた、一見ごく普通の女の子…だからこそ…私がどれだけ愛おしく思っているかなんて、少しも知らないのが、何となく口惜しいけれど。
けれど…
こんな娘といつも傍にいるひとが、こころ奪われてしまっても、ちっともおかしくないと思うの。
「……今日は、逢いにきてくれて、ありがとう。
こんなところだけれど、探偵さんの噂は届いているわ。
これからも、素敵なコンビで頑張ってね」
「……はい」
探偵さんは、一言、驚いたような返事をして、腰を上げる。
「ネウロを待たせてるんです」
「…そう。助手さんにも、よろしく伝えておいてね。
また…逢いにきて。
…待ってるわ」
「はい!」
ドアが閉まる音が、妙に空虚に響くのね。
眩しいほどの笑顔を私に印象づけて、探偵さんは、行ってしまった……
あの笑顔を……
あの娘は、あの助手さんといることで輝かせているのかしらと…思う。
いつまでもこの目にしたいものだと…私は願う……
次の曲には、助手さん、貴方へのメッセージを込めて創ろうかしら…?
……いいこと…?
貴方が何者でも構わない。
化物であろうがドSであろうが何であろうが…あの娘の傍に在る貴方が、あの娘を大切に想うひとであるならば、それだけでいいのよ、私には。
あの娘を真実泣かせたり、真実傷つけることは、許さない…
忘れないで……あの娘は幸せになるべき娘なのよ。
色々な経験を…辛いことも悲しいことも積み上げてゆきながら、いつかは。
今でも幸せなのかもわからないけれど、更に更に、誰よりも幸せになるべきひとなのよ……
それが、私のエゴでしかない希みであっても…それでも望んでしまうのは、どうしようもない。
お互い、あの娘の稀有なちからを知り魅せられた者同士…メッセージは伝わるわね、きっと…必ず。
探偵さんは貴方を朴念仁のようにいうけれど、私にはそうは思えないわ。
だから…聴けばきっと気が付くの。…探偵さんのように。
「どうしたのアヤ。あの名探偵に会って、また新しい曲のアイデアが浮かんだ?」
面会室を出る。看守が笑う。
「ふふ、そうよ」
「アヤは…桂木弥子が会いに来た時が一番楽しそうだわね」
「…そう?
……そう…ね」
それからのこの場所は……
益々青々と、鬱蒼としたあちらこちらの房内
本当に、どこから湧いてくるのかわからない、様々な生き物に満ち満ちて…
時に人々の活気が溢れ賑やかに
また時には、気力も何も消え失せ、どこまでも静かに……
そうして創り上げた歌を聴いたあの娘が、待ちわびるわたしに、また逢いにきてくれる。
それはまだ、ずっとずっと先のお話なのだけど……ね。
終
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