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〜想い祈り唄う〜 01

 閉鎖された空間も、厳しい規則も、不自由な日々も何もかも…私の中の何ものも縛ることは出来はしない。


 私は自由

 悔い改め償う、贖罪の日々を自らに課すのも
 それでも歌を捨てない生き方を選ぶのも

 たったひとりの女の子を待ちわびる自分を笑う、のも……









「アヤ、面会室にお客さんよ」
 看守が私に告げる。

「そう…誰かしら」
「お待ちかねの…」

 私は、
「そう」
 それだけ言って鉛筆を置く。

 こころは、跳ねるようだけれど……





 私に面会に来てくれる人は多い。この場所にいてさえも、現役で歌っている関係上…だからかしらね、きっと。

 その人たちの中で、たったひとり、私が待ちわびるのは……






 わたしを解放してくれたひと……





「お久しぶりです、アヤさん」

 ガラスの向こう、ぺこりと頭を下げる、私が待ちわびた女の子。

 何ということのない、ごくありふれた挨拶でしかない。なのに、こんなに可愛いと思ってしまう、私…

 この娘の口にしたことばに、私は何故こんなにもこころ浮き立つのか…




「新作、買いました。…何度も何度も、聴きました。
 ジャケット、アヤさんのデザインですよね?素敵です!」

 可愛い娘…探偵さんは、そう言って笑った。

「よくわかるのね…とっても嬉しいわ」
「ジャケットを眺めながら、新作を聴いてるんです、いつも。
 曲…感動しました。うまく説明出来ないんですけど…強いメッセージをひしひしと感じちゃって…」
「…そう」



 それは、当然だわ。


 あのアルバムに収めた曲のいくつかは、あなたにあてたメッセージなんだもの……



「…それで、涙ボロボロ流しちゃって、ネウロに呆れられちゃったりして…」

 ぺろっと舌を出して、探偵さんは、はにかみ笑い。

「そうなの…」
 私は呟く。

「…それは、創作者、歌い手冥利に尽きるわね…」


「買う時もね、ジャケットに見とれちゃって、しばらく眺めてたんです。
 でもネウロってば、
『CDは聴く為のものだ』
 って、ミもフタもないこと言っちゃって、さっさと手にして買っちゃったんですよー
 買ってくれたのは嬉しかったけど、こう、もう少し、情緒みたいの欲しいですよね!」

 そうして、この娘はまた笑うのだ。
 とても、とても可愛らしく。

 私も、笑う……




 探偵さんのお話に、『助手』さんの名前が出ない時はない。


「助手さんのいうことも、あながち間違いではないけれどね」
「でもー」
「…それはきっと…
 助手さんはヤキモチをやいたのじゃないかしら?」
「えー、まさか。CDのジャケットにまでー?」
 探偵さんが目を丸くする。


『まで』
 ということは、助手さんは…

 この娘と助手さんは、やはり……

「そうよ」

 探偵さんにはわからないのかしら?
 助手さんがヤキモチをやく対象は、一時的にではあっても、この娘の心を占める、自分ではないもの全般…ということが。

 …この場合、あのアルバムの向こうにいた、私、に…


 助手さんの気持ちは、わかるような気がするのよ。

 いいえ、よくわかる。


 だって私だって…


 私に逢いに来ていながら、話のあちこちに織り交ぜられる助手さんに、この娘の想いに…穏やかな気持ちではいられないのだもの…







[次P#]

あきゅろす。
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