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〜そのこころに〜 01
全く石垣の使えなさはない。これでよく捜査一課の刑事でいられると感心するほどだが、公務員というのは得てしてこういうモンだ。
正義なんかどこへやら…俺も大概そーいう類いではあるが。
…ともかく、使えねー後輩を更に後輩の新人に押し付けて、今日は帰ることにした。
手には、俺には食い切れそうにない頂き物の食いモンが入った紙袋。それに何故かさっき石垣に押し付けられた、食玩のオマケの駄菓子が。
明日から俺は休みだ。ふとあの子の顔が浮かんだ。この手にあるものみんな、あの子にあげたら喜びそーだな……
手の中の菓子を紙袋に突っ込んで、俺は携帯を手にした。
何となくだが、心が浮き立つような気持ちが久しぶりに思えた……
弥子ちゃんと、とある公園で待ち合わせることになった。
先に事務所に電話を入れたんだが、留守電に切り替わってしまって誰も出なかった。
次に弥子ちゃんの携帯に連絡したら、長い呼び出しの後に弥子ちゃんはやっと出て、今そこにいると言ったから、俺は、
『じゃーそっち向かうから』
と言った。そーゆー成り行き。
その公園は小さいがわかりやすい場所だ。
だが、何だか解せない。弥子ちゃんの自宅からも事務所からも、勿論学校からも遠いこんな所に何故彼女はいるのだろう。
まー、仕事のついでなんだろと思うことにして、ともかく車で向かう。
確か、この辺だって聞いたんだがな……
電話で弥子ちゃんが今いると言ってたのは、その公園の目印でもある樹齢ン百年はありそうな大木…の筈だった。
確かに、電話越しにも伝わった枝葉のざわめきが聞こえる。ここに間違いはないようだ。
だがその場所に弥子ちゃんは居なかった。
俺の聞き違いか? そんな筈はないと思うのだが、見晴らしの良い公園内のどこにも姿は見えない。
何となく落ち着かない気持ちが嫌で、煙草に火をつける。
大木を背にして、携帯で弥子ちゃんの番号を押した途端、頭上から妙な音楽が聞こえてきた。何の曲だったか、TVか何かで聞いたことある気がするが、咄嗟には思い出せない。
ともかく、どうして頭上から流れてくるのか。
すると今度は悲鳴のような鋭い声が響いた直後に携帯が落ちてくる。慌てて受け止めた。
「ん…?」
…今、上を見た一瞬、何か見えたような……
見上げて、絶句する。
「……何してんの、弥子ちゃん…」
姿が見えない筈だ。
まさか女の子が大木の枝に座ってるなんて普通思わない。しかも茂る枝葉に良い具合にカモフラージュされていたんだから。
「どうしてそんなとこにいるんだ?」
「………」
訊いても、何故か返事をしない。
「…いつからいたの? …まさか、俺が弥子ちゃんに電話した時? もっと前から?」
その質問には、微かに頷く。
「とにかく、降りなよ。
てゆーか、降りれる?」
そう訊いても、頭上の弥子ちゃんに反応がないのが、俺には意味がわからなくて困る。
困ったままでは埒があかないのだが…正直困り果てている。すると少しして、意外にも弥子ちゃんの方から、
「笹塚さん、ちょっと離れてて」
そう言われ…
迂闊にも俺は言われた通りにしてしまう。
その俺の眼前に……
ひらりと軽やかに舞い降りる、弥子ちゃんの姿が。
…が、着地がそんなにうまくいかなかったのか、膝を着いてうずくまった姿勢のまま弥子ちゃんはしばらく動かなかった。
「…大丈夫?どっか捻った?」
少し心配になった。立ち上がる力添えをしようかと側に寄って肩に触れると、過剰な程の振り向き方をされる。
弥子ちゃんは、見たことがない表情をしていた。何か考えてたのか、少しして、ふぅっと息を吐いて、
「あぁ…ごめんなさい。
…大丈夫です」
と、呟いて、ゆっくり立ち上がった。
−…何か…おかしーな…−
違和感はそれだけじゃない。
弥子ちゃんは、『女子高生探偵』という立場上からか、いつもは学校の制服を身に付けてる。付き合いがそれなりに長いから普段着を目にすることもあるにはあるが……
今のような、革の生地の重たげな…そして黒色が主だった服を着た弥子ちゃんを、見たことがない。
ちらちら胸元に光る金のアクセサリーも意外で…
だが…似合っていた。『探偵』という肩書きがしっくりくるようで。
ただ…
春めいてきて暖かくなった今の季節には…イマイチそぐわない気も…した。
俺にはファッションなんて、わからねーが。
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