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〜かけちがう〜 05

 我が輩から訊きたいことは、ただ一言だ。

「ヤコはいったい…」
『途方にくれているのだと、思いますよ』


―ヤコはいったいどうしたというのだ…?―

 そう、我が輩が言い終えるのを待たずに、何の躊躇いも無しに、アカネは云い切った。
 我が輩が何を訊きたいのかがわかりきっている様子が小癪でならん…


−途方に…?−
 アカネの云う意味が解るようでわからない。

 だがこれ以上は訊かない方が良い気がされた。だからこそアカネも短く言葉を切ったのであろうから。


 ……途方にくれているのは我が輩こそなのだから。


 アカネは溜息を吐いたような素振りを見せ、今度は、
『ネウロ様のように寿命の長い方は、得てして忍耐強くて…
 どんなことにも、耐えるなんて容易いことなのでしょうけど』
 と、ゆっくりと書き出す。


 …永らえる者は耐えるも易い…と…?

 違う…決してそうではない。


 アカネに解らない筈はなかろうに。


「…今日は珍しく強気なのだな」
 答えに窮して話を変え、矛先をアカネに向けると、
『私は一度死んだ身。本意でない生を長く紡ぐくらいならば、いっそ望むままに生き、潔く死ぬことを選びます。
 云いたいことだって、云わせて頂きます』
 なかなか激しい意見だ。
 尤も、アカネは普段から云いたいことを云っているのだが。特に、ヤコに関しては。

『探偵さん…弥子ちゃんも、同じなんですよ。
 私のように死んでなんか、なくても』
「………」

 そして、否応無しに揺り戻される話題、思考…

 アカネはヤコとさほど変わらない、年端もいかぬ小娘であった筈なのだが、一度彼岸に渡った経験からか、ヤコなどとは比べものにならない老成さを持ち合わせている。

 アカネの語ったことは…
 人間に比して遥かに永らえる我が輩とて同じ。

 そして…

 短い年月を“生きる”人間…ヤコもまた同じ、だと…いう。

 巡り逢い重なり合った今を、同じ尺の中を生きている。我が輩と共に、“ここ”に在る……

 始まりは、我が輩が強制して。後にはヤコ自身の意思で……


『それに…』
 また、ゆっくりと書き出す。

『好きなひとと一緒にいたいと思うのが女の子として当たり前で、
 それが日常のことになったのなら、』……
「アカネ、もういい」

 目を背けてきたことに再び言及される前に、我が輩はアカネの言葉を遮った。
 アカネはあっさりと、『黙った』……



 言葉を変え表現を変え…アカネは狡猾にヤコの気持ちを代弁し我が輩を非難する。この秘書は、女である以上ヤコ寄りだ。いざとなるとヤコの味方をする。
 だが…結局は我が輩の意に背くことではないのがわかっているからこそ、なのだ。


―好きなひとと一緒にいたいと……

 ……それが日常となったのなら…

 当たり前。

 『女の子』と……して………−



 アカネのことばに、ヤコの…

 笑顔、泣き顔、拗ねた顔……
 あらゆる表情が重なり駆け巡る。
 







 あれはいつであったか…
 どこであったか…
 そして、誰であったのか…

 かつて我が輩に告げられたことばが脳裏によみがえった。





―……あとは貴方次第―







 蟲がヤコの様子を伝えることはない。

 我が輩は、ヤコの気配の残留するこの場から動けぬまま…

 アカネも、あれから黙ったまま……




 ……ほんとうに、馬鹿げていることだ……








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