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〜センタク〜 04
「そう思うのなら、それで構わなくてよ。仮に貴方には大したことでなくとも、そうとは思わない者が大多数でしょう。
貴方が見いだしたあの娘が、その大多数に属さなかっただけのこと。
そうそうあることではないのよ?
貴方がたのような出逢いは」
「そのようなことは、言われずとも解っている。
……で、貴様の言う『対価』とは、何だ」
ネウロは意識して話題を切り替えた。
占い師に扮するだけあって、この女は何もかもを見透かしているに違いない。
たとえ視る対象が魔人である自分なのだとしても、この女には容易いことなのだ…
見透かされている心地は、弥子が無意識に何かを見抜き、口にするのとは質が全く違う。
―中身を晒されている我が輩なぞ、あってはならんのだ…
この女の側には、長くはいられん…―
ネウロは、この『魔女』にはかなわない何かを悟る。
女は、また微笑み、
「…貴方が欲しいのは、あとちょっとの『後押し』…かしら?
あの娘を縛りつけているようでいて、決定的な何かが足りない…と」
更に艶めいた口調で語ると、ネウロは怒りに似た表情を浮かべる。
「……ふざけるな」
低い呟きに、
「あらぁ、怖い。
このあたしに怖いと思わせるなんて、さすがにあちらの世界でも名を轟かせているだけあるわね、貴方」
むしろ面白そうに言う。
「…我が輩がどのように言われているかなぞ、わかったものではない。
貴様は、ヤコも有名だと抜かしていたからな」
「ふふ……そうかもね。
…まぁ…とっくにわかっているとは思うけど…
貴方がたの関係に関しては、貴方か弥子ちゃんのどちらかが希めばそれなりに近付くし、ふたりともが希めば飛躍的に…といったところよ。
……あとは貴方次第」
女の言葉に、ネウロはくすぐったさを伴った、奇妙な居心地の悪さを感じるのみであった。
―貴方次第…―
わかりきっていることをわざわざ口にするところが、尚更たちが悪いのだ…と、ネウロは思わざるを得ない。
「…と、『対価』のお話でしたっけ…
弥子ちゃんに“この世ならぬ出逢い”を改めて意識させてあげて…
貴方にとって…余計なお世話かもしれなかったけど、少々の“助言”をした『対価』として…
…そうねぇ…貴方のその髪留めひとつ。
当然、この世界のモノではなさそうね。それがいいわ」
煙管を指に挟んだまま、女は頬杖をつき、ネウロの髪を彩る髪留めを指差した。
「…構わんが…これは我が輩の身を一旦離れれば、見た目より遥かに重くなる代物。貴様なぞには扱えまい」
女は殊更に不貞腐れた表情を作り、
「…失礼ね。なら試しにあたしに渡してみなさいよ。
平気なら、『対価』として頂く。無理なら、別のものを考えさせて頂くわ。
…それで良くて?」
と、左手を差し出した。
ネウロは、首の後ろに手をやり、髪留めを1つ外して女に渡す。
女はそれを眺め、握り込み、再び目の前にかざし見つめながら、
「…ふふ、不思議な手触りね。流石にこの世ならぬモノ。
良いモノを頂いたわ。
噂に聞いて、一度はお目にかかりたかったひと達お二人共にお逢い出来たし、お話も出来て光栄だったし…
……嬉しかったわ」
「…我が輩はそうは思わん」
「…そうかもね。だけど、あの娘にはそうではないかもしれなくてよ?
そんな冷たいことを言っては寂しいわ。
…出逢いに無駄なものなんてないのよ。無駄だと思うのは、ご自分のこころ」
「フン…」
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