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〜有限の…〜 4−01
「んー…
もう、朝?」
携帯から流れる音楽で目を覚ました弥子は、明るい光が漏れ入る窓辺を見やり、寝惚け声で呟いた。
すぐ傍で弥子を覗き込むネウロと目があい、
「………」
少々の間の後、
「………!!」
一瞬で飛び起きたかと思えば、自分が一糸纏わぬ姿であることを思い出し愕然とし、慌てて毛布をひったくり体に巻く。
ずりずりとベッドの端ににじり寄り壁越しに階下を窺い、
「あちゃー…。美和子さんもう来てるよ…」
枕元でけたたましく鳴り続けるアラームを止めながら、溜息を吐いた。
とうに目を覚ましていたネウロは、毛布を固く巻いた姿や、そのあまりに慌ただしい様子が可笑しくてならず、笑ってしまう。
弥子の言った通り、階下には既に家政婦の美和子が来て食事の支度をしているらしく、それらしき物音が聞こえてくる。
「笑ってないでよ。人ごとみたいにさ」
弥子が振り返り、笑うネウロを少々睨みつけ、不平めいた口振りで言う。ネウロは如何にも愉快そうにクスクス笑いながらベッドから降り、
「人ごと…とは間違いではないかもしれんがな。
何をそんなに慌てているのやら…そう思う以前に、貴様の様子があまりにも滑稽で笑ってしまうのだ。悪く思う程のことではなかろうが」
“愉快”な有様の少女に向き直って囁いた。
「充ー分悪く思うよ!
滑稽で悪ぅございました!
学校行くのに制服着なきゃならないんだよ!? お風呂場に置きっぱなしじゃん。
そんなん取りに下りたら、ヘタすりゃ怪しまれるじゃん。これ、慌てずにいられると思う!?」
大声でまくしたてた弥子は、言うだけ言って言葉を切り、
「……あんたはそんな余裕でいーよね。ぽいぽい脱がしてそれっきりなんだから…
…所詮、ヒトゴト、だし」
と、少々顔を赤らめつつ、拗ねるようにぼそぼそと口籠る。
ネウロはまた笑い、
「我が輩に文句を垂れるとは、寝呆けて身の程すらも忘れたか? 流石に低脳なだけあると感心してやる。
…だがな」
腰を折り、ぐいっと顔を近付け、手を伸ばす。
「な、何よ」
「貴様の制服は、そこにちゃーんとあるではないか。どこに目を付けている? その目は紛いものか? 飾りにもならない飾り物か? うん?」
「いだだだ…! 瞼を引っ張るな!」
戯れによる慣れた痛みは、弥子の視線をネウロの示唆した方向へ導いた。弥子の勉強机の椅子へと。そこには、弥子の制服が皺にならないよう綺麗に掛けられていた。
「あ、ホントだ」
「…それだけか?」
「痛い痛い痛いってば。
…ハイハイありがと。
いや…さ、あんたにはありえない心遣いだからさ、思いもしなかった」
「……本当に、失敬な奴だな」
「だからって今度は口を引っ張るのかよ!」
喚く弥子の様子が面白いと思うに任せ、戯れ続けていたネウロだったが。
「…それにしても、美和子さんが来ることは頭から抜けてて焦ったなぁ。
あんたがそれまでずっとここに居てくれるとは思わなかったってのもあるけど」
「………」
頬を引っ張られたままの何気ない言葉に、ネウロは一瞬返す言葉を失ったが、
「あーでも、どうしよ!」
「…何がだ」
「もしもあんたが見つかっちゃったら、よ。ホントどうしよ。そしたら当然お母さんにもバレちゃうし…うわー」
「………」
続く言葉に今度は呆れてしまう。
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