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〜有限の…〜 3−05

 常夜灯だけが灯る薄暗い部屋。
 規則的な呼吸音だけが聞こえる、静かな空間。

 無防備な表情で眠るヤコ。
 まこと、無防備としかいいようがない。からだを覆うものは、変わらず我が輩の上着だけだというのに……


 あれから、日本酒とやらをほんの2、3口含ませただけで、ヤコはあっさりと眠りに落ちてしまった。
 嫌がっているのを無理矢理含ませたのは確かに我が輩だが…呆気なく思惑通りとなり、少々物足りなく思ったというのは、あまりにも虫の良すぎる話ではあろうか。



 生地の厚い上着でも、そして微かな明かりでも、ヤコの痩せた身体の陰影を浮かび上がらせる。
 ようよう大人になりかけつつあるようで、まだまだ子供の体つきだ。
 それでも…眺めるだけというのは、なかなか骨が折れるもの…むしろ毒である。だからどうするという訳ではないのだが。

 このまま一晩中放っておくわけにもいかないだろう。時間が経ち、いい加減体も冷えつつあるようだ。酔いその他に熱っぽく赤らんだ顔や脚が元の肌色を取り戻したことでわかる。

 また風邪でもひかれてはかなわん。我が輩は、足元に丸まっていた毛布をつまみ上げ、ヤコにかけてやる。上着の上から……











 もう待たないと思ったのは…いつであったか。

 ヤコが記憶を失い、そして元に戻ったと解った直後…だったな。



 我が輩は、そのおのれの意思に従うつもりだった。

 それが…いつの間に。


 いつから…
 何故…

 意思とは真逆に向かい、今に到ったものか……


 事実を思い返すのは容易い。だがそこに感情が絡めば、我が輩の不得手な領域。理解し難いこととなってしまう。
 その対象はヤコだけではなく、我が輩自身であっても例外ではないのだ。

 それでも、我が輩は考えずにいられん。

 何故…

 物理的距離は変わらず近くにあったにも関わらず『離れて』いたのか。ヤコが拗ねてしまう程…と。



 そうだ。漸く解ったことが、ある。

 …ヤコは拗ねていたのだ、ずっと。




『当然ではないですか。女の子なのですから』
 唐突にアカネの言葉を思い出した。全く関係なさそうであるのに。


 女であればこそ…
 これまでの一連の態度も全て、女であるが故…




 我が輩はもしや、ヤコを見くびり過ぎて、思うより理解していないのではなかろうか。



 愚かな生き物だと思い口にし虐待し遊び相手にし。

 …まだ子供だと思い…

 だがしかし、確かに愛でているヤコを……






「…寝ないの?」
 唐突のヤコの声に、思考は妨げられ、我が輩は迂濶にも、少々驚いてしまう。

「……そう言う貴様は?」
 殊更に意識して面倒臭そうな口振りで訊くと、
「なんか、あんたが小難しいこと考えてるのが気になって」
「…そうか」
 そうか、聴かれているのか。

「何『言って』んのかわかんなかったけど、ちょっとうるさい」
「…うるさい? 生意気な口を聞くならば、またコレを飲ませてやるとするか」
「それはカンベン。
 …でもホント、もう寝ないと。いくらあんたでも、3時間は寝ないとなんでしょ?」
「ほう…よく覚えているものだな」
「何言ってんの。あたしがあんたの言ったこと忘れるハズないし」
「………」



―あたしがあんたの言ったこと忘れるハズないし―

 何という嘘をつくのだか。冗談にもならん。








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