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〜有限の…〜 3−04

 そんなにも美味いのだろうか。我が輩には今ひとつ解らんのだが。
 立て続けに何度含ませても、飲み下す度に高らかに喉は鳴る。貪るかのような音は、何とはなしに淫靡とさえ感じられるもの。やはり美味いと解釈して良いのだろう。

 押さえつけた頬は熱い。
 缶を握る左手にそっと手を添え素直に受け止めるヤコの掌もまた。
 缶の中身は…冷たい。
 だから…口付けつつ手を繰り缶を握らせ、その手を覆うように握り込んでやった。



 行為を受動から能動にすり替え見せかける…どこまでもこじつけに過ぎんが、されるがままのヤコ。我が輩はそれにすらヤコの意思を見、理由を更に得る。

 …理由を付けては、ヤコに触れ続ける。以前ならば、そのようなものなぞなくとも、好んでそうしていたが。

 遠のいていた分だけ、今の我が輩は浅ましい……


 ヤコの渇きはなかなか癒されないらしく、口移し…口付けが数を重ねてゆくばかり。缶の本数もまた同じく。その分ヤコ自身に影響がいくのだが…
 それは、我が輩に対しても。
 ヤコに比べれば、微々たる程度、ではあるが。



 だが流石に。

 もう幾度目だろうか。再び中身を口に含もうと、ヤコの手に握らせた缶を傾けると、ヤコが逆の手で飲み口をやんわりと押さえた。

 缶を置き、改めて見下ろせば、顔全体は勿論、首筋に至り目に見える範囲の肌全てが赤く染まっていた。


「…もう良いのか」
「………」
「黙っていてはわからん」

 黙ったままこちらを見上げるヤコに、我が輩は返事を催促するかのような言葉を投げかける。


「…わかってるクセに」

 ぽつりと呟かれたひとことに、我が輩は笑った。
「貴様にしてはあまり飲まないと思ってな。この程度の量の缶だ。貴様ならば10本は飲まねば、とても渇きを癒されはしないだろうに」
「白々しいにもほどがあるよ。それも、知ってるクセにさ」
「…さあな」

 そう、既に経験済みのことだ。一時期この『遊び』を気に入り、散々ヤコを酔わせてきたのだから。

 ヤコは酒に弱い訳ではないようだが、我が輩のこれには弱い。
 増して、湯にのぼせ、その他もまだ冷めやらぬ今こうされては、ひとたまりもないに違いないのだ。

 知っていて尚…知っているからこそ…



「ビールが駄目ならば、こちらの瓶もあるぞ。これならば良いか?」
「それ日本酒!もっとタチ悪い。なおさら、ダメ」

 我が輩は聞かぬふりをし、瓶の蓋を開け中身を口に含む。
 …なるほど、アルコール特有の臭いや、口に含んだ際の刺激は、ビールのそれより強いように感じられる。

「ゃ…だって…」
 背ける顔を無理にこちらに向かせた。

「ネウロ……」
 心底からの困惑顔。名を呼ぶなり引き結ばれた唇にも、流石の抵抗を見て取るが…こじ開けて、流し込む。


 我ながら器用なものだと思いつつ…

 密かに嗤う。己の中の矛盾、に……








 我が輩の内に、再び昂ってゆくと反比例して高まる、これ以上踏み込んではいけないと警告し続けている厄介な何かがある。


 そのような面妖なものに従うつもりなどない。

 しかし無視もまた、出来ない。
 口惜しいことに、欲に従いきることが出来ないのだ…



 だからこれは…

 ヤコをおとなしくさせ、同時に己の内の欲に属す感情をほどほどに満たしつつ静めるには、唯一でうってつけの手段…

 とも、いえるのだ……









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あきゅろす。
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