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〜有限の…〜 3−03

 意識していたいないに関わらず、これまでヤコを遠ざけてきたのは、紛れもなく我が輩だ。
 何故触れ合ってこなかったなぞ…知るものか。

 そして…ヤコが意識を失ったのは我が輩の仕業。知らばくれる程我が輩厚顔ではない…が、先程のときはヤコがきっかけ。ヤコのせいだということを忘れてもらっては困る。

 ……ヤコが、感覚を受け入れやすいからだだからこそ……


 …あぁそういえば、ヤコはそれについて謝罪を口にしたのであったか。


 名残に染んだ肌が視界を、空気越しに伝わるやや熱い体温が感覚を…
 今も尚我が輩を惑わし続けながら、他愛なく謝罪し問う貴様は小憎らしい。


「……特に焦る程のことではない。貴様が謝る必要など、尚更ないではないか」
「………」

 こころの『声』には答えない。我ながら白々しい科白を吐く…と思いはするが、半分は本心だ。
 嘘であって、嘘ではない。

 ヤコが言及してくることはなかった。それを良いことに、
「服のことを言っているのではないのはわかった。だが…そうだな。折角なのだから、今着てみるか?」
 意識して話を切り替えると、ヤコは、
「うーん、頭ボーッとするから、遠慮したい。残念だけど」
 と、本当に残念と言いたげな声音で。
「…そうか」
「ん。またこんど…
 …!」

 ヤコが弱々しい咳を漏らした。

「…ノドかわいたー…」
 溜息混じりの声は、体内の水分がだいぶ失われたにも関わらず時折興奮しつつ喋り続けたせいで、更に掠れていた。


「…貴様がそう言うと思って、良いモノを用意してやったぞ。喜べ。そして我が輩に感謝するが良い」
「え?」

 相当意外に思ったものか、我が輩の手にしたモノ…飲料の缶…を見てヤコは驚き、それが何か解るや否や、更に表情を強めた。

「…って、それ、ビールじゃん!!」

「そうだが? 湯上がりのコレは殊更に美味いと聞いたのでな」
「そ…そりゃホントのこと…だけどさ。
 珍しく気を利かせてくれるなら、もう少し、さー。ジュースとかお茶でしょ、こーゆー場合」
「ム。
 ヤコ…貴様、貧相なくせして贅沢言うなぞ一万年早いぞ。貴様など、本来ならば沼泥で十分。水でも勿体無いというのに」
「貧相って、何がよ。“しょうでい”って何よ!?」
「泥水のことだが」
「…ッ!! 失礼にも程がある! あんたなんか、泥水どころか水すら飲まないくせして、よくそんなコト言えるよね!
 とにかく、あたしは飲まないからねっ! そんなのは」
「………」

 我が輩の厚意を無下にするとは、何と生意気な。
 埒のあかないやりとり。我が輩もおとな気ないのだろうが…
 全く、口の減らない奴め。

「…水すら飲まない…か…」
 ヤコの科白を繰り返すと、ヤコがハッとした顔でこちらを見た。

 無言のまま、見せつけるように、殊更に音を立てて缶のプルトップを開けた。即座に缶を傾け、中身を口に含む。

「ちょ、ネウロ?…きゃ!」
 驚き慌てた短い一声は、意図を察した故…だけではなく、少々零れた缶の中身…冷たい液体が、我が輩の顎を伝いヤコの肌に落ちた為だ。

 構わず顎を片手で固定し、そのまま…顔を伏せる。



 背に腹は換えられないとはよくいったものだ…

 ヤコは、特にこれといった抵抗を示さずに、我が輩が口移しで流し込む液体を、音を鳴らして嚥下していく。









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あきゅろす。
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