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〜センタク〜 02

 女は、くすりと口元だけで笑った。そうして、真っ直ぐと弥子を見つめ、
「桂木弥子さん、あなたを視て差し上げましょうか?」
 妙に艶やかな声音で囁く。

「…え…いや、でも…なんか高そうだし、あたし今お金持ってないし…時間もないし…」
 興味はあるらしく、口ごもりながら、弥子はちらりと傍らのネウロを見上げる。
 ネウロは、あらぬ方を向いて視線に気付かないふりをする。弥子は溜息をついた。
「…ていうか、私のこと知っているんですね」
 女はクスクス笑い、
「あなたのことを知らない人はいないわ。あちらの世界でも、あなたは有名人よ。
 ……を骨抜きにする、すごいニンゲンの女の子って」
「…え?」
「……」

 女のことばの一部を聞き取れず、そして意味も解らず、弥子は戸惑い、ネウロは片眉を上げた。

―……何だ…?
 この女は……―


 女は変わらずクスクスと笑いながら、
「心配しなくても、あたしが視る…ウラナう対価は、お金じゃないわ。
 …それに、そこの助手さんに頂くつもりだから。
 時間もそんなに長くとらなくてよ?」
「……でも」
「あたしが貴女を視たいの…いけないかしら?」



―そうなのであろうな…―

 ネウロは思う。
 この怪しげな辻占い師は、弥子を視たい…ただそれだけで、ここに居たのだろうと…根拠もなく。

「構いませんよ先生。
 …せっかくですから、先生のその幸薄いご運を再確認なさっては?」
 意外なネウロの言葉に弥子は驚き、
「いいの?
 ていうか!あたしがホントに幸薄いんだとしたら、原因はひとつだけだと思うんだけど!」
 抜かりなく突っ込んでから、女に向き直った。

「…じゃ、お願いします」

 女はにっこり笑う。


「お名前は『桂木弥子』…本名ね…」
「はい!」
「…では、誕生日と満年齢を教えて?」
「3月10日生まれ、16歳です」
 弥子は、胸躍らせながら、女の質問に答えた。



「…3月弥生生まれで、弥子ちゃん…ね。
 あなたは、ご両親にとても愛されて育ち過ごしてきたわね。

 …けれど…それほど遠くない過去に、決定的な転機が、あった……」

「………」

「それはとてもとても悲しいことだけれど…それでも強くあろうとするあなただからこそ…
 乗り越えてゆける路が、あったのね…


 カツラギヤコさん…

 あなたは……」

「………」
「………」





「この世ならぬ出逢いをし
 この世ならぬ経験を数多するでしょう…」

「………」
「………」


「仮にそれ…出逢いがなくとも…生来のこころ強さで、あなたは過去の悲しみを乗り越え強く生きてゆけたでしょう。

 けれど、出逢いで変わりゆくものが、あなたを更に強くしてゆく…

 逆に、出逢ってしまったが最後、それなくば生きてはゆけない程に…出逢ったものは、あなたに、あなたの今後の人生に、決定的な影響を及ぼす……


 ……それは……」

「…もう、あったかもしれないんですね…」

「………」
 女は、弥子の問いには答えずに、ただ微笑んだ。




「……あたしから言えるのは、ここまでよ。それ以上だと、助手さんが対価を支払うのが大変になるわね」


「いいえ、充分です…
 …ありがとうございました」
 弥子が深々と頭を下げる。


「どういたしまして」
 女は、心なしか嬉しそうに、妖艶に笑った……





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