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〜有限の…〜 2−12

 泡がすっかり流れ落ちると、頭を掴まれて、半ば放り込まれるように湯船に入れられた。
 勢い余って跳ね上がったお湯で、髪がまたびしょ濡れになる。ホント、洗髪を断った意味、まるっきりないよね……


 ひとりきりの湯船。あたしはお湯の中で何故か正座して、浴槽のすぐ側に…ちょっと斜め向きに立ってるネウロに向き合って、見上げた。


「ネウロは、入らないの?」
 そう、訊いてみる。

「…入る?」
 きょとんとしたような、顔。珍しく躊躇している様子のネウロ。そんな素振りは見せないけれど、間違いない。
 ネウロがよく口にするセリフじゃないけど、ここまできて今更、何々だろ。
 ホント、ヘンなヤツ。

 だけど…それはあたしも同じだ。
 自分から、こんなこと言う、なんて…



 そんなことを考えながら見上げたネウロは、確かに『濡れて』なかった。ただ、お湯がかかってるだけ。
 それら…お湯や泡は、みんな服が弾いて。玉になって転げ落ちるだけ。ゆっくりと。

 見たことがないワケじゃないけど、なんて不思議な光景なんだろ…




 少し間があって、
「…このままでも構わんならば」
 ネウロは小さく言う。

「そのままでも別にいいよ。あんたのハダカを見るつもりなんて、ハナからないし。ていうかむしろ、脱がないで下さいお願いします」
 今度は笑う。なによ、ヘンなことなんて言ってないのに。
「…だからさ、靴履いてるのも気にしないし、それに…どうせネウロ、そのまま入ったって濡れないんでしょ?」
「その通りだが…」
「なら、いっそこっち来てよ。そこに立ってられても、間がもたないじゃん」
「………」

 それが“約束”だって、一緒に入る気まんまんのこと言って、あたしを戸惑わせまくったクセに…って、思わなくもない。
 あたしもあたしで、どうしてこんなに必死に湯船に誘いこんでんだか……



「…非常識なヤツめ」
「え?」
 ぱしゃん、と顔にお湯をかけられて、思わず目を閉じると、ドボン、とすごい音。次いでお湯が溢れ出す音がした。
 体を抱え上げられて、向きを変えられる。




「…あ」
 ネウロの長い脚の間に、あたしはいた。

 この体勢って…久しぶり。

「非常識なヤツって…
 それって自分のこと言ってんの?」
「…生意気な」
「あんたに常識非常識言われても、ピンとこないんだから仕方ないじゃん」


 いつもと変わらないやりとりが、浴室特有の響きと水音で、いつもと違って聞こえた。
 1人では広いばかりの、入り慣れた浴槽が今日は狭く感じる。体の大きいネウロと2人でなんだから、当たり前。

 ネウロが後ろからあたしをやんわりと囲って。ついでに頭にアゴを押し付ける。
「痛いってば」
 なんて訴えてみると、笑った息づかい。もっとアゴでぐりぐりしてくる。面白そうに。


 相変わらず鼓動は跳ねるように早い。ネウロになら簡単に気付かれそうで今更ながら恥ずかしい。
 けれど、なんだか嬉しくもあって…あたしもちょっとだけ笑い声を漏らす。




 以前は事務所宛の封書を分別する為に、毎日のようにこうしてたっけ。
 顔が見えない分、ネウロにとっても楽なんだろう。

 お湯は、ちょっとぬるいけれど、体温が上がってそうな程ドキドキしてる今のあたしには、かえって快適な温度だった。








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あきゅろす。
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