[携帯モード] [URL送信]

main storyU
〜有限の…〜 2−10

 無言で淡々と、ネウロがあたしを洗ってく。むぅ…ホント手際良いというか何というか…

 この調子だと、髪も念入りに洗うんだろうなぁ…

 ……ととと。

「…そうだっ!」
「ム?」
「ネウロ、そのシャンプーは使わなくっていいからね」
「…どういう意味だ?」
「髪は洗わないでいいからねって意味」
「……」

 危ない危ない。こー言っとかないとヤバいんだった。

「…既に濡れているというのに、何故だ?」
 背中を撫でつける手を止めないまま、ネウロが訊く。

「………」
 うーん…
 今更だけど、ネウロなら、しないでと言ったことを、嬉々としてするんだよね。困った……
 どう言えば、この魔人を言いくるめられるだろうか。



 ホントは、ここまでしてるんだから、別に、髪を洗ってもらったって、かまわないんだけどね…



 実は…
 あたしの頭に、明らかに事故のせいで出来た、けっこうなハゲがあったのよね。そのことは、何故かこのネウロにバレずに済んでた。ここんとこ、すごく密着することがなかったせいかもしれないけど。
 だいぶ良くはなってて、まず目立たない。けれど、髪を洗われたら最後、ネウロにはわかっちゃうに決まってる。
 そんで、バレたら、からかわれるに決まってる。ネウロのことだから、ねちっこくくるだろう。それはさすがにイヤ。
 それ以前に、女の子としてやっぱり、普通に恥ずかしいし……


「あれを着る為にお風呂入ってるんだから、そこまでする必要ないと思うし」
 と、言い訳してみる。ネウロの言う通り、もう髪まで濡れてるんだから、苦しいかもしれない。


「…………
 まぁいい。嫌だと言うのを無理強いする気はない。我が輩は紳士だからな」
「…よく言うよ。それにあたし、イヤだなんて言ってないし」

 ホッとした。ネウロにしては、割とあっさり引き下がったなぁ、とは思うけど…



 …もしかしてネウロ、知ってたりするのかなぁ…?

 まさか…ね…



 ちょっと、もったいない気持ちになった。
 事故の傷痕…五百円ハゲがちゃんと治ってたら。そもそも、そんなのなければな…なんて、思う……




「…背後からは意外にも洗いやすいものだな」
 ぽそっと、ネウロが呟いた。
 背中を洗ってた泡だらけのスポンジが、いつの間にかお腹の方に回ってる。残る片手もまた、お腹を抑えるように。
 その分だけ、身体は近くて、声もまた、近かった。

 後ろから、ゆるーく抱きしめられてるみたいだぁ……


「そんなもん? けどそれは、あんたのリーチが長いから言えると思うんだけど」
 だからあたしは、意識して平常心を保たなきゃならない。身体を洗ってるだけなんだから…と、ムリヤリ自分を納得させて、あたしは出来る限りフツーに答える。

 上がる心拍数は、抑えようがないけれど。


「そうか。…だが、正面からはまだこうしていないのだから比較が出来ん。どうにもわからんな」
「………」

 口をせわしなく動かしながらも、お腹を撫で付ける手の動きによどみはない。


 洗ってもらった箇所のあちこちで泡が垂れていく。何だかヘンな感覚だった。自分で洗う時には、まずそんなの意識なんてしないのに。



 正面からはまだしたことはない…

 そりゃ、そうだよ…ね……








[*前P][次P#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!