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〜有限の…〜 2−06

 思わず笑ったあたしを、ネウロが訝しむ。

「何を笑っている」
「別にぃ」
「…フン。
 あれほどぎゃーぎゃー騒いでいた割には、あっさりおとなしくなったな。強制的に風呂に入れられ、ずぶ濡れになり漸く観念した猫のようではないか」
「……ぷっ!」
 例えがおかしくって、また笑ってしまった。

 あたしは猫か。猫なのか。
 …にしても、可愛らしい哺乳類に例えるなんて、珍しいな。


 本当、ずぶ濡れのネコのように、観念するしかないよね…

 なんて、考えながら、
「お湯たまるまで、少しかかる…」
 振り返ろうとしたのに、長い腕に絡め取られて邪魔された。
「……よ…」

 後ろからゆるく抱きしめられてる感じ。ドキドキ、する…
「そうか」
 浴槽から立ちのぼる湯気のせいか、クラクラしかけた…けど。

「時間が多少かかろうと特に問題はない。貴様が服を脱いでいる間にでも、湯は溜まっていようからな」
「え。脱ぐ……」
 ネウロの言葉にびっくりして、ドキドキがおさまっちゃった。

「何を言っている貴様。風呂とは、衣服を脱いで入るものだろうが」
 呆れ声のネウロ。うん、確かにあたし、マヌケなこと言ったね。

「そ…そりゃそうだけど…
 この手は、なに?」
 戸惑いながら、訊く。ネウロが背後からまわした手で、リボンを外してるから。

「脱がせてやっている。訊かなくともわかるだろうに」
「そうじゃなくて、どうして、あんたが…」
 更に訊くと、手を休めないまま、
「脱げと言ったならば、貴様は素直に脱げるのか?」
 問いに問いが返る。素っ気ないくらいに。

「………ムリ…です。はい」
「だろう?」

 だろう?…って…
 だからって、あんたが直々に脱がせるのか。

 …それしか、ない…か…

 あたしって、つくづく建設的にものを考えられてない!

 …じゃあなくって…!!



「ちょ…ちょっと!」
 身もだえしながら、今度はシャツのボタンを外しにかかったネウロの手を、あたしは押さえた。

「…何だ」
 何となくスネたように聞こえる声が、ちょっとだけおかしかった。同時に、頭の斜め上から耳にかかる囁く息が、くすぐったくって…

「明日も学校あるんだよ!ここは困る!あんたたぶんどーせ、ぽいぽい脱がしてそこらへんに放り投げるだけでしょ?脱衣所ちゃんとあるんだし、せめて……」

 それ以上は恥ずかしくて言えたもんじゃない。頭がもっとクラクラしてくる。
 自分を励まして、一息でそう言うのが、やっとなくらいに。


「……」
 ネウロは無言だった。
 あたしの身体は唐突にすくい上げられて、浴室から出される。


「…貴様はつくづく面倒臭い」

 すとん、っと脱衣所に立たされて、今度は正面からボタンに指をかけられた。

「何よぅ…!」

 女の子の恥じらいを何だと思ってるのよ!
 それに、どーせあんたにはわかんないだろうけど、人間って生き物はね、明日のこととかそーゆーの、ついつい計画的に建設的に考えちゃうものなのよ…!


「…ふ…」
 ネウロが笑う。
「…何笑ってんのよっ」
「……」

 笑いながら答えないネウロに、自分自身の矛盾に思い至る。


 あれ…?
 あたし、ついさっき、建設的にものが考えられないなって考えなかったっけ…?








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