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〜センタク〜 01

 駅に近い繁華街は、夕暮れが迫るにつれ行き交う人の群れによりざわめき、独特の密度が高まる。

 このような場所には、たとえ小さなものであれど『謎』が見つかりやすいものらしく、ネウロは、早急に手掛けなければならないことがない時には、弥子を連れ街に出ることもあった。


 街中をゆくふたりは、はたから見ればもちろん、女子高生探偵とその助手がそぞろ歩いているようにしか見えないが…
 ネウロは『謎』の気配を逃さないように周辺への注意を怠らず…
 一方の弥子は当然……
「美味しそうな匂いがあちこちからするなー」
 ネウロに置き去りにされないように懸命に早歩きしつつも、辺りに視線をさまよわせる。

「…お買い求めにはならないのですか、先生」
 ネウロはふと振り返り、表向きの口調での問い掛け。

「ん、いいよ、今は。
 こないだ叶絵とこの辺りブラブラして、めぼしいのはみんな食べてるから」
「…フン」
 周囲には聞こえないように、ネウロは鼻を鳴らした。

―買い食いなんてしたら、容赦なく置いてくし、事務所に戻ってから、もっと容赦なくお仕置きするくせに…―

 …とは、言わずにおく。


「そうですか」
 ネウロは再び前を向き、歩き出す。





「もし……
 そこのお二方…」


 二人が唐突に話しかけられ振り返るそこには、古風めいたマントを身に着けた者が、簡素なしつらえの占卓に座っていた。

 フードを目深に被り顔は伺えない。僅かに晒し辛うじて見える顎の線や声音から、女であるとわかるが、一見すれば怪しげな風貌に映るのは否めない。

 しかし、占いを生業とする者であるとわかると特に気にならなくなるのが、弥子には不思議に思えた。


「あれ…この人」
「ご存知なのですか?先生」
「ううん、知らない。今さ、声をかけられて振り向いて気が付いたけど、たった今ここ通り過ぎる時には、占い師なんていたかなぁ…って思って」
「……」

 ふたりは囁き合う。
 弥子に言われずとも、ネウロは、占い師の出現の唐突さと不自然さに気付いていた。『謎』には関係しないと感じられ、気に留めなかった…それだけのこと。


「うふふ、びっくりさせてしまったみたいね、お嬢さん。
 ここは、易占であって、実はそうではない。今のあたしは、普通の人には見えないの。
 だからお嬢さん方ははじめ気付けなかったのよ」

「……?」
「………」

「アナタ方がすごく興味深いお二人なものだから、声をかけずにいられなかったのよ。
 …だから今、あたしが見えるし、居るってわかるの」
 そう言うと、占い師の女の頭を覆っていたフードが、重厚で無骨なマントごとぱさりと落ちた。手も添えず、風もなかったにも関わらず。


―うわぁ…キレイな人…―

 女の言っていることは理解し難く、またいかにも怪しく……
 本来ならば警戒すべきではあるのだが…露わになった女の妖しい美貌に目を奪われる方が、弥子には勝った。

 どこまでも長く真っ直ぐな黒髪を美しく結い上げた女は、神秘的で近寄り難い雰囲気を惜しげもなく振りまいている。

 弥子は、ほうっと溜息をひとつ吐く。
「………
 でも、それって……
 私達を待ってたみたいで…何だか不思議ですよね」

「…そうとも、言えるわね。
 でもあなたは、そんな不思議なことを、何故そんなにすんなり受け入れてしまえるのかしら?」

「………」

「ここで出逢って、あたしが声をかけたのも、偶然とはいいきれない抗えない縁…

 そう…

 偶然という糸が織りなした、必然とも言えましょうか?」
「………」
 不思議な女の言う言葉に、ネウロも珍しく耳を傾ける。






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