short
いつか叶う夢A
―でも……―
ふと、頭に浮かんだこと…思い出したことがある。
「でもさ……ネウロ。
この際だから、訊いちゃうけど……」
それを、私はネウロに問いかけることにした。
「何だ」
「んっと…その……
あんた、これまで、その……『避妊』を、さ…一切したことない、よね……
それでも、これまで、あたしが妊娠すること、が、なかったってことは、さ……」
「………」
ネウロは私をじっと見ている。
何だか、また別の意味で恥ずかしくなってくるけど、今更訊くのをやめることは出来ない。
「実のところ……
あたしとあんたとでは、もしか…子供、作れない、んじゃ、ないの?」
途切れ途切れに、呟くように口にしないと訊けないこと…それは……
私が、これまでネウロとの将来を夢想しては、
―でも、ダメかな……―
と、秘かに諦めてきてた理由のひとつでもあった。
ネウロは、私とこういう関係になった最初から、『避妊』したことがなかった。
高校生だった頃も、再会してから今までも、ただの一度も。
ネウロ的にそうはならないってわかってるから、必要がなかったのか。
あぶないよなぁ…なんて思いながらも、いつもいつも雰囲気とか強引さ……
それと、どれだけ体を重ねても、本当にそうならないって事実に流されて、訊くことをしなかったんだけれど。
こんなことを今更初めて話すなんて、“健全な男女交際”だったなら極めて情けないことなんだよね。
もっとも、私達の関係は、その最初っから誇らしく声高に健全なんて全くもって言えやしないものだったんだけども。
コイツみたいな化物…人外…異邦人…と否応なく関わって、いろんなことを知っても尚、ウカツにも好きになってしまったのに、なあなあにしてきた私にも責任がある。
どうしたって、知らなきゃならなくなる時は…くる、のに。
何故か笑みを浮かべたネウロが、
「我が輩はこれまで『生殖活動』をしたことはないぞ」
そう、口にした言葉の意味が、私には全然わからなかった。
「……えっ?」
「子が出来ないのは当然ではないか」
「あんた、それ、言ってること昔と違くない?」
だって、まだ私達がお互いの関係を意識するずっと前にネウロは、『そういうこと』をそう…『生殖活動』だって…言ったんだから……
私はだから……
ネウロがあたしを、その相手に選んでくれたことで、あたしはネウロにとってそれに値する存在なんだって思ってたんだけど…
それはしょせん、あたしが勝手に思ってきただけ、なの、かな……
あれ…あたし自分で思ってることがぐるぐる矛盾してる……
動揺してるのかな。何だか訳がわからなくなってきた。
「そんなら……てことは……つまり……
今までネウロがしてきた…あたし達がしてきたことって、何?」
辛うじて、問う。
ネウロはあたしを流し目に見る。
「……決まっていようが」
薄く笑いながら言う。そんなことを。
「わかんないよ。
……だから、何?」
自然と問う声が震えてしまう、あたし……
「求愛行動」
「…………ぇ」
私の中の、時間が、止まった。
「聞こえなかったか?
求あ……」
「……うわ―――っ!
わ―――っ!
わ――――っっ!!」
ネウロが口にしたセリフのあまりの衝撃に、あたしは取り乱してしまう。
何故かこっちの方が恥ずかしくなってしまって、顔を両手で隠すしかないあたしに、
「……うるさい」
ネウロは結構強めな頭突きを喰らわせる。顔を覆う両手首を取られて、そのまま何度か軽めのキスをされた。
……深くしてこないのは、“察してる”からなんだろうな。
ちょっと涙ぐんじゃった目尻と額にもキスしてからネウロは少し顔を離して、あたしの顔を覗きこんだまま、言い聞かせるように話し出す。
「子孫を作る必要などまだない。だが、だからといって、その理屈がヤコを欲する欲求を収める道理であろう筈がなくてな」
「…………」
「機が熟すまで待つ気もさらさらない。そのようなこと、出来る筈もない。
……ならば、それ…求愛行動のみに特化させれば良いだけだ」
「…………」
「特に難しいことではない」
「…………」
遠回しなようでいて、すごいストレートに言ってくれちゃってるな……
おかげで、あたしは返す言葉が全く思い付かない…けれど、嬉しい。
もちろん恥ずかしいけれど…すっごく、嬉しい。
「……まぁ、『生殖活動』をしたことはないというのは厳密には正しくないがな。
初めの頃はそうと意識などしていなかったのだから、実は『リスク』が無くもなかったか。
幸か不幸か、どちらであろうな?
……なぁヤコよ」
無駄に色っぽい顔で、ネウロはそんなことを言っている。
「……決まってるでしょ、そんなの」
どうとでもとれる返事を、私はするしかない。
……つまり。
あたし達が『そーゆー関係』になった最初、コイツは避妊的な配慮とかしてなかった。
…ていうか、そういう配慮の必要すら知らなかったんだろうけど。
あのときだけは、あたしがネウロの子供を授かっちゃうかもしれない可能性があったのか。
でも……どうしてだか、そういうことの必要性を知って、自分の中の何かを調整…要は自分自身で『避妊』してたってことなのか……
便利な身体だな。
そもそも、その外見すらもこっちの世界の都合に合わせてるからこそ出来ること、なのかな。
魔人じゃなきゃ絶対出来ないこと、じゃん。
あたしも大概、大変な奴を唯一無二の相手にしちゃった…されちゃったんだな…って、本当に今更ながら思ってしまう……
「ヤコよ…貴様はどうなのだ?」
「え?」
「子を欲した訳でもないにも関わらず、従順に淫らに我が輩を受け入れてきた…受け入れるのは……」
「…………」
ことばを乞うようなセリフを、コイツってば何てズルいタイミングで口にするんだろう……
でもやっぱり、あたしからも言わなきゃフェアじゃない、よね。
「決まってるじゃない。ネウロが好きだから。
……欲しいから、だよ」
言い切ってやる。
「…………」
ネウロはポーカーフェイスを気取ってるけど、それはそれは嬉しそうだった……
「でも今日はダメだからね」
念の為、そう言ってやると、ネウロはふいっと横を向いた。
「……わかっている」
やっぱそうか…そうだよね……って、ちょっと笑ってしまう。
ネウロはこんな日はやっぱりベタベタくっついてくるんだけど、今日は何故か「近すぎ」ってツッコむ気にならない。
ぽつぽつと、さっきの話の続きをする。
将来の話を。お互いの、子供の話を。
「あんたの遺伝子めちゃくちゃ強そうだから、みんなあんた寄りの子供になりそう」
あたしを横から抱き込んで、顔のすぐ横に顔を寄せるネウロにそう言ってやると、ネウロはクスクスと笑った。
「それを言うならヤコの遺伝子も中々我が強そうだぞ」
……我が強い遺伝子って、何だ。
「……でもさ、ネウロ知ってる?
子供ってのはフツー、結婚してからだよ。順番ってものがね……なんてあんたに説いたってムリか」
ネウロは「フム…」と何事か考えた後に、
「貴様はとうの昔に我が輩のものであるのに…なにゆえ、こと改まって面倒なしきたりに従わねばならないのだ」
なんて言う。
もう、情緒とかムードとかロマンって言葉がネウロの辞書にはないとしか思えない。
「なら、あたしはシングルマザーかぁ……
しゃーないか、ネウロは魔人だから戸籍なんてないだろうし」
ため息と一緒に呟くと、
「……子供を私生児にするのは確かに忍びないか……」
ネウロが神妙な顔で呟いた。
「私生児って、古っ!あたしシングルマザーってちゃんと今風に言ったのに、何でわざわざ平成通り越して昭和の言い回しする?」
「…だが所詮は書類上のことでしかないがな」
「聞いちゃいないし」
「それに…いざとなったら我が輩、戸籍の改竄など容易いのだから安心していいぞ、ヤコよ」
「…………」
ため息しか出ませんよ、旦那様。
あたしは、あたし達の未来と、いつか授かり産まれてほしいあたし達の間の子供に幸あらんことを、今から祈っておきます。
了
今年6月7日の『プロポーズの日』に触発されてかき始めたけど、間に合う筈もなくテーマもずるずるずれていった有様のお話です(笑)
結局、同じshortに先頃更新した吾代さん語りのテーマに近い話になってしまった
しかも、過去のshortにも似た話かいてる上、結論が逆という!
反省はしていない
20200702
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