short かの声は危険なりき 「……ねぇ…… もうすぐ依頼人が来る時間じゃなかったの……」 「…………」 躊躇いつつの言葉など聞こえないふりをして返事をせずに、我が輩はヤコのうなじの髪をかき分け、唇を這わせる。 誰かがここに来る…その程度のスケジュール上の些事など、当然把握している。 ならば、今止める意味などない。その時に止めれば良いだけの話。 我が輩がそうしたいと思ったら、それは全てに優先する…当然過ぎるほど当然のことだ。 ヤコを抱え上げ我が輩の片脚に跨がせる。 唇を幾度も触れ合わせ、ゆるゆると焦らすが如く、次第に深め絡めてゆく。 慣れか、或いは諦めか、特に抗うこともなくヤコは受け入れる。 ……首に腕を回ししがみつき…むしろ悦んでいるかのように…… 外部の人間の訪問を認識しているが故、ヤコの着衣その他諸々を乱し乱れるまで踏み込むこと叶わぬ、時間的にも行為そのものにも制限ありきのひととき。 ……ただ触れ合うに留まるとはいえ、我々は何と不埒に振る舞うものか…… ………気配を感じる。 まさにその他人… 我等が探偵事務所の訪問者がここに近付いてきていた。 宣告代わりに口付けを更に深める。 「…………んん……」 ヤコが喘ぎ唸ると同時に、扉を叩く音が響いた。 「……痛っ!!」 ヤコが鋭い声をあげたのは当然だ。 軽くではあるが、舌に牙を立ててやったのだから。 そのお陰で恍惚のときから一気に現実へと引き戻してやれたのだから、感謝してほしいくらいなのだが… ヤコは我が輩を恨みがましく睨み上げるばかり。 我が輩は笑みつつ手の甲でヤコの頬を二、三叩いた後、扉の外にいる人物に対して適切な応対をし、事務所内に招き入れた…… 「……それでは、先生がお話をお伺い致します」 ソファに座り直したヤコの背後に立ち、我が輩は来客…依頼人に話を促す。 ヤコも素早く平常に戻り、にこやかに依頼人の(ヤコにとって)小難しい話を聞いている。 主に応酬するのは我が輩。 全くもって、いつもと変わらない光景だ。 ※ ※ ※ ※ ※ 以降のことを打ち合わせたところ、幾つかの都合上、我々がこの件に関して動けるのは明日以降となるので、依頼人には程よき時にお引き取り頂いた。 ヤコは客人に出した飲み物の器を片付け、給湯室にいる。 今日はもう『謎』を孕む気配を感知することはなさそうだ。 半端に切り上げてしまった先程の時間のこともあり、待ち惚けているのもつまらないので、我が輩も給湯室へ…ヤコの元へ向かった。 鼻唄まじりにヤコが洗い物をしている。その後ろ姿に気配を殺し近付き…… 「ヤコ」 我が輩は、耳元で一言、名を呼んだ。 それだけ。 ……だった。 にも関わらず…… 「ひっ!!」 ヤコは異様なびくつきかたをし、洗っていたカップを取り落としてしまった。 咄嗟に手をのばし、それが床に落ちる前に受け止める。 カップをヤコの手に戻しながら、 「……何を間抜けなことをしているのだ?」 と問うと、ヤコは顔を赤らめて下を向いてしまう。 「……?」 訳がわからないので、中指を顎にかけ顔を上げさせ、瞳を覗き込んでから、 「黙ってるだけでは何もわからないだろうが……」 そう囁くと、 「……………っっ……」 更に顔を赤くしてしまった。 「……ヤコ?」 みたび、今度は耳元で囁くと、 「ひっ!!」 と、またひきつったような妙な声を上げ、とうとうしゃがみこんでしまった。 ヤコは膝に顔を伏せたまま、 「……その声、今はカンベンして」 消え入りそうな震え声で言った。 「…………?」 我が輩がヤコに囁きかけるなど、頻繁にあることだ。その筈であるのに、何を訳のわからないことを…… 「…………腰にくる。特に耳元で言われると」 「…………」 耳まで染まった赤い顔に震える声。 そっと手を伸ばせば、身体が早くも熱を帯びているのを掌に感じる。 先程と同じように…… ……どうやら…… 我が輩がヤコに囁きかけたことで、ヤコは心身共に先程のときの状態に一気に揺り戻された模様…の、ようだ…… うまく情欲をおさめたものだと思いきや、実はこのからだの奥に密かに湛えたままだったということか。 それが、我が輩の声ひとつで…とは、また…… ヤコにとってそれは、当然不随意に…迂闊にもそうなってしまったということなのであろう。 反応や反射は避けられない。どうしたところで身体は正直なのだからな。 ヤコがそうして欲しいと希むならば是非もない。喜んで応じてやろうではないか。 ……そもそもそのつもりでヤコに近付いた自身を棚に上げ、ヤコに責任転嫁していることに気付くのだが、そうであろうとなかろうと… 我が輩の声だけで欲情が揺り戻されたという反応は… その表情やもじもじした仕草を目にしたら最後、こちらもついつい釣られてしまう類いのものであるのは致し方ないではないか…… ヤコの手を取り立ち上がらせ、先程と同じように焦らしつつ徐々に深めてゆく口付けを味わわせてやりながら、狭い給湯室の壁際にヤコを追い詰める。 壁にヤコの身体を押し付け、両手はその身体を探ってゆく。唇と同様に、はじめはさわさわと軽く触れるだけで焦らしつつ、少しずつ的確に…… 我々が『こういう関係』になってまだ日が浅い。 なので、ヤコの反応は感じるまま奔放になりきることを憚り、羞恥が多分に勝っている。 …が、素直に応じ、我が輩のすること…ヤコの肌を辿る唇や、身体を探る手指の動き…その悉くを受け入れる。 そのさまは非常に…… 「……随分とそそる反応をするではないかヤコよ」 そう、わざと耳元で囁いてやると、ヤコのからだが大仰に震え上がった。 「……っ!だから!今、耳元でそれはやめてって!!」 ヤコは当然ながら悔し紛れの不平を口にするが、これほどまでに愉しいことをどうして止められよう。 我が輩は耳元で笑ってやる。 「…先程と違い今は時間がある。さぞかし待ったことであろうから、とことん付き合ってやるぞ。ヤコ」 「……こ…の…… ……あ…っ!」 震えが更に顕著になったのを見澄まして耳朶を含み弄ぶ。 「〜〜っ!!」 声をひたすらに耐え忍ぶしかない様子のヤコ。 唇でも指でもヤコの弱いところを我が輩は的確に責めてゆく。 ヤコはからだが高まってゆくにつれ、カンどころは増してゆき、それに伴って感度も格段に増す。 着ているものを多少寛がせた程度の、見える…直接触れられる範囲内だけでも、それは顕著になり…… 忍ばせた革手袋越しの指からも、纏わりつくようなヤコの熱さが伝わってくる。 そのうちヤコは脚がひどく震え、いよいよ以て立っていられなくなったようなので、我が輩はヤコの身体を肩に担ぎ上げ、事務所内に戻った。 ソファに横たえてからも…… ヤコの感覚の鋭さを、時に卑猥な口振りを少々交え耳元で褒めるなり揶揄してやるなりし… その都度のヤコの反応を愉しんだりなどしつつ、なかなかに濃厚なときを我が輩は…我々は紡いだものだった。 ヤコとの睦言では毎回なにがしかの発見があるのだが…『声』とは流石に驚かざるを得ない。 ヤコが元々感じやすいたちだったこともあるのかもしれないが、そうなるよう導いてきたのは、紛れもなくこの我が輩なのだ。 ……ならば…… 我が輩は己を誇ってもそれは決して傲りなどではない。 真実なのだから当然であろう……? 終 ※ ※ ※ ※ ※ ある日、ネウロさんはイケボとツイートしたことから浮かんだお話です それと、ネウロさんに耳元で囁かれて呆気なく腰砕けになる弥子ちゃんのシーンがまずあって、そこからいろんなシーンを妄想させていきました そしたら、思った以上に過激な文章になってしまいましたが、まぁ声だけで腰が抜けてしまうなら前哨戦もあったかもとなり、何だかんだでそれなりにディープでも問題なかろうと(笑) ここのネウヤコはmainIIを踏まえた感じで、文章の途中にちょっとありましたが、あの章のラストからあまりたってない時期のつもりでかいてます ですから、特にネウロさんはさりげないふりしてるけど、かなりそーいうことに興味津々な感じ 余裕ぶってる感じなのに割とそうでもないって、拙宅のネウロさん、そういうの多いな ちなみに、ネウロさんが囁いた「ヤコ」の声のイメージは、ドラマCD第二弾で聞けたお声です (実際は犯人の声マネだったんだけど、おおいに萌えさせて頂きました) 別の話を更新している途中ではありましたが、『謎』もネタも新鮮なうちにってネウロさんも言ってましたしね (そんなこと言ってない言ってない) ここまで読んで下さって、ありがとうございました 20200420 <前へ><次へ> |