[携帯モード] [URL送信]

short
ここにも、いるよ(3)

「…すみません」

 探偵さんは落ち着いたようで、恥ずかしそうにしていた。
「いいのよ。わたしの前で繕う必要なんて、ないんですもの」

 少し安心したわたしは、探偵さんはこれからどうするつもりなのか、訊いてみた。


 この娘を欠いては“探偵事務所”が成り立たないのと同じように、助手さんを欠いても、そこは回らないのだと、わたしは思っているからだった。

 探偵さんはきっぱりと、事務所を守っていくと言った。ならば、その為にこの娘自身はどうしてゆけばいいのだろう。どうするつもりなのだろう。

 それについては……



「…ネウロがいないから今までのような活動は出来ないけど、事務所には非常勤の人がいて、力を借りながら…」
「あなた自身はどうするの?」
「…さすがに、まだよくわかりません。けど、ぼんやりと…なら…」
「そうね。前も言ったけれど、探偵さんがわたしの所に来た時は、探偵さんの中でもう答えが出ている時だもの」
 探偵さんが、はにかんだように笑った。わたしも笑って、先を促す。


「私…何にもわからないままネウロに引きずられて『探偵』してて。今でもほとんどわかってないまま、ネウロに置いてかれちゃったから…
 世界を見てみたい。『謎』は、ここにしかないわけじゃなくて、日本にしかないわけじゃなくて、世界中にある筈だから」
「……」
「束の間だろうけど…やっと自由になったから。
 ……それまで」
「世界を股にかける『探偵』さんになるのね。素敵だわ」
「そんな大層なものじゃないけど…」
「いいえ、きっとそうなるわ」



 何もかも…いつか還ってくる助手さんの為…なのね。

 あなたがあなた自身を進化させるのは、自分の為だけではなくて……


 ほんとうに、妬けてしまうわ。


 こんなに想ってくれる娘を置いていってしまえるなんて…と、わたしまで矛盾したことを考える……



「それじゃあ、探偵さんにあまり逢えなくなってしまうのね」
「え…それは…」
「けれど仕方ないわ。あなた達はふたりで1つだもの」
「…あ……」
 わたしの言葉のどこに反応したのか、探偵さんは少し遠くを漂う瞳をした。


「助手さんが戻ってくる、そのときに、お互いをもっと支え合えるように。助手さんが、もっと探偵さんを頼れるように。
 あなた自身がもっともっと輝いてゆけるように。
 いつになるかはわからなくても、再び逢いまみえたそのとき、あなた達は間違いなく、もっとずっと素敵なコンビになれるわね」

「…はい!」
 力強い返事が、頼もしかった。
「楽しみにしているわ」



 この娘は…
 助手さんが傍にいない、ひとりであっても、その名を世界に轟かせるだろう。そう遠くない未来に。

 助手さんが見い出し、わたしが大好きになった、『探偵』さんなのだもの。






 わたしは再び歌う


 寿ぎと祈りと、ほんの少しだけ惜別の悲しみの涙を込めて……


 羽ばたいてゆくあなたに

 大好きな…あなたに……






<前へ><次へ>

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!