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ここにも、いるよ(2)
「あたしは…
ネウロがいなくなる…もしかしたら一生帰ってこれなくなるのかもしれなくても、そんな状況より、ネウロが死んでしまうことの方が耐えられないと思ったから…その方が辛い。ずっとずっと、比べようがないくらい…」
「ええ、そうね。そうよね……」
「そんなこと考えるだけで、どうしたらいいのかわからなくなるから…
ネウロに、余計な心配しないで早く帰れって言った…んです。
だけど、いざ本当にいなくなると…
…どう言ったらいいんだろう。魔界になんて帰らなくても、もっと他に方法があったんじゃないか…そんな風にも思えてきて…
うまく言えなくて、矛盾してますけど、でも…
大丈夫だって思ってもいるんです。あいつにも、そう誓った。なのに……」
「………」
「だって…
あいつの故郷は魔界かもしれなくっても、あいつの居場所は、あの事務所なんだもの」
助手さんが帰ったという『魔界』がどういう所なのか、まるでわからない。たぶん、探偵さんだってわかっていないに違いない。
これほどまでに「常識」を超えた話を、身近に…大切なひとから事実として聞く。ありえないことなのに、どこまでも荒唐無稽なのに、不思議な程すんなり受け入れられてしまう。
以前探偵さんが、『あれは私の力じゃなくて…』と、助手さんのことを語った時も、そうだった。
誰が見ても『探偵』と『助手』だった。本当は『助手』が実質の探偵だったなんて…きっと、あの2人と事件を通じて関わった人にしか理解し得ないのではないか。
いいえ、わたしは…
探偵さんの言うことならば、一も二もなく信じてしまえるんだわ。
この娘がわたしに嘘をつく筈なんてない。無条件にそう信じられる。それも、わたしが事件を通じて、この娘に関わったから……
「……矛盾しているといえば…わたしね、思うの」
「何を…ですか?」
「助手さんは、刑事さんが亡くなって、ひとの死がもたらす重大さを…死が周りの人を…探偵さんをどれだけ悲しませるのかを、はじめて痛感したのかもしれないわ。
だから助手さんは……
決して自分は死んではならないと思ったのではないかしら。…それまで以上に、強く。
護るものの為には命を惜しまない。でも、死ぬ訳にはいかない。
それなのに、生き延びる為には、探偵さん…あなたの傍を離れなければならない。
“あの”助手さんが、さぞかし迷ったことでしょうね……」
「………」
「あなたと同じよ。矛盾している。その妙な『人間臭さ』にこそ、助手さんの本音がある。ことばにはしないでしょうけれど。
探偵さんなら、わたしなんかよりもっと深く、もう、とっくに理解出来ているんじゃなくて?」
「………」
探偵さんの瞳から、涙が零れ落ちていた。
あの時とは少し違う涙。
あぁ…この娘は泣きたかったのだ……
自然と、歌が口をついて流れ出てきた。
拭うこと叶わぬ涙を流す、目の前のあなたに。
かけることばなどみつけられない、いとおしいあなたに、ただ静かに、歌を……
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