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ここにも、いるよ(1)
何か事が起こるのを待っているなんて…
まるで、あの娘が話す助手さんみたいだわ…と思う。
事件を待っている。トラブルを待っている。
その先に、望む何かがある……
探偵さんと助手さんの危機を感じて少しだけ脱獄…出てきたわたしは、周辺の警備を強められてしまった。
さりげなく、でもあからさまに。わたしは気にしないけれど。
何故そんなことをしたのかと訊かれたけれど、話したところで、あなた方には解らないでしょうに……
あれからそれほど日が経ったとも思えない頃、探偵さんが唐突に面会に来てくれた。
硝子の隔ての向こうに座る探偵さんは、少しだけ痩せたように見えた。
「びっくりしたわ。急にどうしたの?」
「ごめんなさい。でも、どうしてもアヤさんの顔が見たくって」
「ありがとう。嬉しいわ」
この娘は、わたしに何か訴えたいことがある時に頼ってくれる。
生憎、その想いがわたしにとってどれだけ嬉しいことか解ってもらえてなさそうなのが、少しばかり口惜しいけれど。
「事件は解決したそうね。詳しいことは一切公表されなかったらしいけれど…あなたと助手さんでしょう?」
「ええ、まぁ…」
ちょっと虚ろな感じの返答。
「…なのに、探偵さんはどうして、そんなに元気がないの?」
そう尋ねると、ハッとしたように探偵さんは顔を上げて、背筋を伸ばして、
「アヤさんには、本当にお世話になりました。あの時に見つけた、おじさんの手紙のこともあるし…何より、アヤさんに会わなかったら、私は何も気付けなかった。私が前進するなんて、なかったんですから」
急にハキハキした口調で言った。
「そう。無事に仲直り…関係修復出来たのね。良かった」
「…ええ、まぁ…」
また少し口籠った曖昧な返事をした探偵さんは、俯いてしまった。
「…これからも、あなた方の活躍の噂が、ここまで届くのだと思って良いのよね?」
少し念を押すような問い方になってしまったのは、この娘の様子に、何となく引っかかるものを感じるからだった。
「探偵さん…?」
呼びかけると、
「…それは、ありません」
また顔を上げて妙にハッキリと言うのだけど、言っている意味が、よくわからない……
「ないの?」
「しばらくはない。もしかしたら…ずっとないかも、しれない」
「ごめんなさい探偵さん。どういうことなのか、よくわからないわ」
「……アヤさん…」
わたしの名を呟いた探偵さんは、少し悲しそうな顔をしていた。長い溜息を吐いた後、急に表情を改めて語り出す。
まるで弾丸のように。
あのときと同じように……
助手さんが瀕死の状態だったこと。
同郷で昔馴染みの「化物」が現れて、このままでは死ぬと言ったこと。
生きる為に、助手さんは帰ってしまったこと。
いつ帰ってくるのか、そもそも「ここ」に帰ってこれるのか、わからないこと。
探偵さんが、迷う助手さんの背中を押したこと……
話は時々前後しながら語られる。わたしは、ただ黙って聞いていた。
目が覚めたらいなくなっていたのだという。
眠っている間に立ち去った助手さん。この娘を少なからず寂しがらせてしまったけれど、そうした助手さんの気持ちが解る心地がした。
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