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何気無いことから

 ある日ある時突然、弥子ちゃんが言いました。


「ネウロってさ、考えようによっては、仙人みたい」
 …と。
 パソコン画面から目を離さないままです。何を見ているのやら。


「…貴様の言うことは時に…いやいつもだが、全くもって意味不明だ。
 “せんにん”? 訳のわからんモノ『みたい』なぞと言われて、我が輩驚いたし、いたく不愉快だぞ」
「知らないんだ? 逆にこっちがびっくりだよ!」
「……」

 ネウロ様の苦りきった表情といったら!

 そして当然…
「…いぃ…痛い痛い痛いっ!」
 あぁ! このままじゃ弥子ちゃんは、たくさんの首輪で首を飾れればそれだけ美女だという、遠い国の少数部族のアイドルになれてしまいます!

 …なんて、冗談を云ってる場合ではありません。
 それにしても、ネウロ様でもご存知ないことがあるんですね。


「ちょっとした調べものしてて、流れで見てたの!
 そしたら何となく」
 首を掴まれてぶら下がったまま弥子ちゃんは普通に言います。流石に場慣れしてますね…

「…そもそも“せんにん”とはどういうものなのだ?」
「仙台の仙に、人ね。さっきざっと流し読みしただけだから、あんまり覚えてないんだけど、要するに、基本お爺ちゃんの姿をした不思議で偉い、すごい人」

 思い出思い出し言ってますが…弥子ちゃん、それ、アバウトすぎ。逆にいうと、とってもわかりやすいですが。…たぶん。

「ほう」
「あたたたた! あんたのことだなんて言ってないじゃん! いったい何にスイッチ入って、この虐待になる?!
 説明くらいきっちりさせなさいよ!」
 そして、今更痛がるのね。

「ならば、解りやすく言うがよい」
「…だってさ、不思議な神通力はあんたの『能力』みたいだし、霞食べて生きてるって言い伝えは、あんたの主食の『ナゾ』みたいだし…
 そもそも、幾つだか判んないし…さ」
「ほう……」
「あ、あ、その胡散臭い笑顔と手付きはやめてカンベンし……
 ぎゃあああ――!!」




 あーあー……

 私は、もう関与しません。はい。




 弥子ちゃんの説明は、かなり噛み砕かれいて解りやすいものでした。
 なるほど。言われてみれば、ですね……



「…全く…」
 弥子ちゃんが首を押さえながら帰った後、ネウロ様は早速パソコンを開いて、件の「仙人」を調べているようで、しばらくしてから、
「“霞”…か…」
 クスクスお笑いになっています。

 もしも仙人が実在するとしたら、此岸より彼岸。ネウロ様よりも私に近い存在なのかもしれない…なんて、ふと思いました…

『ほんのちょっとでも共通点があると、すぐにネウロ様と結びつけてしまうということでしょうか』
 と、申し上げると、ご自身でもわかっておられた筈のことなのに、満更でもないお顔をなさいました。


「…だが、あの豆腐如きに、この我が輩が惑わされ地に落ちたというのは不本意だな。アレは自意識過剰が過ぎるのではないか?」

 ……
 別に弥子ちゃんは、そのエピソードのことは言ってませんでしたが……



 弥子ちゃんのイメージした仙人は、特に名のある仙人ではなかったと思うのですが、ネウロ様が仰るのは『久米仙人』と呼ばれる方のようです。

 『女性の色香に惑わされて、地上へ落ちる』
 …でしたっけ。


 順序が違うだけで、同じことのように感じてしまうのは、何故なのでしょうね……?


「…何を笑っている、アカネ」
 また苦りきった顔をして、ネウロ様が仰います。


『私、笑ってなんかいませんが?』
「…そうか」

 危ない危ない。ネウロ様ったら、鋭いんだから…






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あきゅろす。
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