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命じず、願う…

 友達の身内が亡くなった。


 葬儀で、身も世もなく嘆き泣き崩れるだけの友達に、あたしは…
 かける声をみつけることが、出来なかった…


 同じような思いをしてきてるくせに…
 同じような思いを、乗り越えてきたくせ、に…




「慰めるって、難しいね…」

 あたしは事務所で、ため息と一緒に呟く。

 紅茶を調合中のあかねちゃんが、ちょっとだけ反応して。
 ネウロは、片眉を動かしただけだった。


 沈黙が続いて…少しして、
「……慰める必要など、なかろう」
 ネウロが、何でもないことのように、言った。

「だって友達なんだよ?
 少しでも力付けたいとか、そういうの、当たり前の感情じゃん」

「貴様の学習能力の無さには涙ぐみそうになるぞ我が輩は」
「白々しい!」
「…では貴様は…わかりやすく陳腐な慰め言葉が欲しかったのか?」
「…ッ!
 ひどいよネウロ!」

 あたしはそう叫んだけど…



 そうだ…

 あたしは、そんなの求めてなんかいなかった……






「喪った者なぞ、生きる者が忘れずにおれば…かたちにこだわらず想ってゆけば、それは旅立ちへの華向け(餞)に成り得る。
 いつか魂は転生し、想われ満たされた想いは、次なる生の糧となろう。

 …だが、それだけではない。

 現世に尚生きる者は…悔恨や悲哀に停滞なぞせずに、残る短く儚い生をどれだけ活かしきれるか…

 ただ生きるのではなく、活きることが、出来るか…

 それこそ…遺された者が出来得る、喪った者への最上の慰めなのではないか?」


 …よくわかんないけど、ネウロのいうことは、神がかったような、どっか宗教的なことばだった。


 でもそれは、ネウロがあたしにこれまで仕向けてきたことそのものでも、あった。



「…そだね」

 あたしは、笑う。

 ほんとうに、そうだよね……




「…それで…
 我が輩への感謝のことばは、ないのか?」

 おでこをこつんとぶつけて、ネウロはワガママを言う。

 ううん、ワガママなんかじゃぁ、ないか…


 ネウロのおかげで、お父さんを喪ったあたしが、どれだけ救われたか…


 そして、巣喰われたか……



 忘れない、何にも、忘れはしない…



 それを、全身で経験してる、あたしだから…


 きっと、友達の力になってあげられる。


 今すぐにあらわれるものじゃないのかもしれないけれど、いつか、必ず。




「ありがと、ネウロ」


 さりげない感謝のことば

 軽い小さな、キス……




「……忘れるな」
「うん」

 忘れちゃいけないのが何なのかは…ちゃんとわかってる。



 この魔人に希まれて、あたし自身も希んで求めて…
 そんなお互いの紡いでった何かはきっと……
 このあたしの一生ひとつぶんでは足りないほど強いものなのかもしれないな、って……




 ネウロのことばは、命令口調だったけど、どこか違うニュアンスも感じた。

 どこまでも、自分中心には違いないんだけど、ね。

 それが『願い』というものなら…


 想うというこころは、どれだけ強いんだろうね…ネウロ。

 ひとは強いんだって…あんたが一番よく知ってる。


 けどね

 あんたの『願い』は…あたしにしか届かないんだからね?


 わかってる…?






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あきゅろす。
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