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〜看る魔人〜 01

 非常に珍しいことに、ヤコの母親から、事務所に電話があった。
 珍しいのではなく、むしろはじめてであるのか。


 我が輩は今まさに、腹立たしさをつのらせているところであった。


 ヤコが姿を見せないのだ。

 もう、とうにこちらに帰ってきても良い時間であるにもかかわらず。
 それどころか、何故か昨晩からヤコとは音信不通で、メールの返事はなく、何度電話しても応答はない。


 我が輩はヤコに『蟲』を憑かせない時も、あるにはある。
 昨日はたまたま『蟲』を呼び戻していた。

 ……そんな時に限って……

 我が奴隷がかような体たらくなのは立場をわきまえんにも程がある。いいかげん学校へ乗り込んでやるかと思っていた矢先の、ヤコの母親からの電話なのだった……





『お久しぶりです、助手さん。弥子の母です』

 ヤコとよく似た声だ。幾分低いか。

「ご無沙汰いたしております、お母様」
 我が輩は、無難に返答する。

『ご連絡が遅くなってしまいましたけれど、どうかお許しくださいね。
 今、仕事でようやく手が空いて…
 助手さんがさぞかし心配なさっていると思って、これでも急ぎお電話差し上げました…』
 ヤコの母親は電話口の向こうで宣う。



 心配なんぞ、してはおらん。
 …が、どうやらそれなりの事情があるようだ…と、我が輩はようやく思い至った。


「先生に、何かございましたか…?」

 我が輩は問う。






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