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〜ことばの待ち人〜 08

 反応が違う…
 『味』が違う…


 今宵は幾度となく、こうしている筈なのに……
 感慨が、違う。

 何故なのか、わかるようなわからんような………


 我が輩に封じられ声にならない声が、喉元に響いている。
 随分と心地良い、響き。

 腰を撫でさする掌を、半ば無意識に胸に伝わせてみれば…

 頬よりも腿よりも、遥かに柔らかい、感触……


「んん…」
 ヤコは口中で呻く。

 これまで一度も触れてこなかった。今思えば、意識的に。
 少々小さい気もされるが、なかなか悪くない感触ではないか……

 思わずシャツの上から握りしめると、からだが大きく跳ね上がった。
 片腕で支え、ヤコも抱きついているとはいえ、場所柄少々危なげな反応だ。

 からだの中でも感じやすい場所という知識はあったが……


 唇を離してやると、ヤコは荒い息を吐く。

 潤んだ瞳が、映りこむ月明かりを揺らしている。

 互いに煽り煽られ、我が輩がこうしたのだが、だからこそ、その様は非常に好ましい。
 …しかし、同時に我が輩は、言葉を見失う。


 この状況で口を開けば、我が輩らしくない言葉を発してしまうやもしれず…

 それは…我が輩にとって、あまりに口惜しいこと、なのだ……


「………」
「………」

 互いにしばし沈黙した後、先に口を開いたのはヤコの方だった。

「……えっち」
「………クッ…
 フハハハ…ッ」
 拗ねるような子供じみた言いぐさに、我が輩は思わず声を上げて笑ってしまう。

「そうか、こういう行為を、そのように言うのか…
 それならば、我が輩を誘う貴様は、その上をゆく何と表現すればいい?」
「…っ…知らないっ!
 あたしそんなことしてないもん!」
 むくれるヤコの横顔を見、得もいわれぬ思いが滲み出る。



 これはきっと…

 “可愛い”

 と想う、感情……


 くるくると目まぐるしく変化する表情も、感情も、声音も、この我が輩を巻き込む小憎らしい雰囲気も…


 …つくづく…
 ヤコは、可愛い女だ……


 口惜しいので、決して言ってなど、やらんが。



「今更何を言う」
 やおら手をのべ、襟元のボタンに指をかける。

「えっ!」
 とっさにこちらに向き直る、動揺の色濃い表情のヤコも、また良い。
 ボタンを3つばかり外し、邪魔な制服のリボンも取り去る。
 リボンは、するりと落ち、眼下の茂みに引っかかった。


「あ…」
 漏れた甘ったるい声は、落ちたリボンに対してか、我が輩の手や唇に反応してなのか……


 視界に入る肌の範囲が広がり…我が輩は鎖骨に唇で触れてみる。
「……ッ」
 やはり、即座に反応する。声をワザと抑えたのが小癪ではあるが、顔が赤らむのは抑え難いものらしい。


 しかし…

 ただ探るのみの我が輩が云うのも何であるが…

 …これは…愉しみ甲斐のあるからだなのかも、しれない…


 面白く思うに任せ、見える肌のそこここを、跡を付けながら辿ってゆく。

 先程とは逆の…心臓のある方の胸元を掌で覆ってみれば、鼓動が早鐘のように響くのが感じられた。


「…ね…ネウロ…怖い、よ。
 あたし怖い…」

 ヤコは喘ぎながら怖がるが、

「『怖い』…とは、どちらを指して言っている」
 我が輩は意地悪く問う。



「……どっちも」
「……そうか」

 我が輩は、ここは良い場所だと思っているのだが…


 ここならば…

 ヤコは声を忍んでいるようだが、その表情も忍ぶ声も、また好ましく…
 そして、ヤコがどのような声をあげようが、少なくとも他人の目に触れることはない。

 声を拾われたとて、まさかこのような所でこのようなことをしているなど、人間共には思いもよるまい。






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あきゅろす。
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