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〜ネウロ逡巡〜 12
軽快な足音を響かせ、ヤコは少し遅れて歩いてくる。いつもの移動風景。
それではもの足りない面持ちなのはきっと、先ほどの波が今だ我が輩の中に漂っているからに違いない。
判っているのに…
つと腕をのばした。ヤコはきょとんと、我が輩の手を見る。
愚鈍な虫め。
「また足を痛められては、かなわんからな。捕まって歩け」
ヤコは瞳を丸くし、少しばかり赤くなり……
躊躇いがちに細い腕を我が輩の腕に、滑り込ませてきた。
よほど恥ずかしいのか、歩き方がぎこちない。そんな姿が小気味良く愉快だ。
からかってやるかと右手で頬をつねってやると、こちらを見上げて、
「エへへ…」
…と笑う。
きっと、男とこうして歩いた経験がないのだろう。我が輩とて、このようなことなぞ……
しばし歩いていると、ふと、良い匂いを感じる。
ヤコの使う(洗髪などの)ものではあろうが、それだけではない、ヤコ自身の存在が放つ、芳しき匂い。
知らなかった。長くヤコの傍にいたが。
なるほど…
―意識しなければ、そこに在ってもわからないことが、あるのだ…―
月明かりの淡い影がひとつ、長くのびていた……
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[*前P]
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