main storyT
〜そして助手は苦笑い〜 19
ヤコは首を傾げ、常とは少々異なる声音で我が輩を呼ばわるのだ。
見ようによっては無邪気であろうが、そうではない。
我が輩はつい、
「…クッ…」
抑えきれない笑い声を喉に漏らしてしまう。
「…?」
このようなときに、そのような声で我が輩を呼ぶのか、ヤコよ…
我が輩の手が、唇がヤコを探ることを待つ…期待する…
その表情を隠さないのか。
歓迎すべき変化、反応ではあろう。
…そうなるように仕向けてきたのは、紛れもなく我が輩なのだから…
両掌でヤコの頬を包み込み、はじめだけ啄むように、すぐに深く口付ける。
口付けながら、片方の掌だけ離し、つと滑らせる。
頬から耳、首筋へと…
「………」
ヤコが喉奥で唸るような一声を響かせた。
悪くない反応、だ……
最早…
邪魔なものは何もない……
唇を覆っていた膜も…
飲んでいた物の味も…
ヤコが街中で遭った人間の微かな匂いすらも…
気を散じさせる邪魔でしかない残留物は…何も感じない。
ヤコから今感じるものは、ヤコの味のみ。ヤコの匂いのみ。
…ヤコに移った、我が輩の匂いのみ、だ……
.
[*前P][次P#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!