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〜きっかけ〜 03

 言葉の意味を理解出来ずにいた、ただ1人冷静でいられるネウロは、妙な雰囲気の中、口を開く。


「雑用の説明は、半端に時代遅れのようではあるが、よぉくわかった」
「うぅるせぇ!!」

「それにしても、愉快ではないか?」

 ネウロは心底楽しそうに、眼下の少女に語りかけた。

「ヤコよ、吾代には我々が

   『生殖活動』

 …を日々しているように見えるらしいぞ!」

「…ッッ!!
 ぎゃあああぁぁ〜!

 やめてやめてやぁめて〜!!」

「…て、オメー…」

『………』


 弥子は絶叫し、吾代は絶句し…あかねは硬直した……




―何だよ…その言い方はよ…―

 吾代は呆れ、思う。





 ネウロの、それに対する考え方。それにネウロと弥子の2人は、決してそんな関係ではないことだけは、今の科白で判りすぎる程解りはしたのだが……




「なぁヤコよ。
 周囲にそう認識されているようであるのに、期待に添えていないのは、申し訳が立たないと思わんか?」

「……は?」

 ネウロは椅子にしていた弥子の体をひょい、と片腕で引き上げ、自分はソファに座り少女をテーブルに置いた。

 実にわざとらしい笑みを浮かべ、腰を屈め、少女を見上げるように覗き込む。


 弥子は不覚にも、

―…あ…
 何かかっこいいかもだなぁ、こーゆー時のコイツってば……
 …てか近すぎ!!―

 …などと考えてしまったことを、次の一瞬で後悔する。



「…探偵事務所の
 今後の発展の為に…
 我々はよりいっそう
 結束を固めるべきかと
 僕は思いますよ。

 …先生?」

 緩やかに語り、意味深に言葉を切り、続ける。


「つきましては…お教えを乞いたく存じます」

 両肩をがっちり掴まれたままの少女は、胡散臭さ100%の笑顔である魔人とは真逆の、怯え度100%の引きつった笑みを浮かべた。

 少女のすぐ後ろでは、元凶の吾代が恐る恐る成り行きを眺めている。

 その言葉の意味が自分の予想を外れてほしいと心底望みながら、少女は問うた。


「…えー…と…
 念の為聞くけど、教えって、
 ……何の?」


「もちろん、生殖か…」

 弥子は慌てて声におい被せた悲鳴をあげる。

「わー!わー!わー!!
 わーーーっっっ!!」

「チッ。うるさい豆腐だ」
 魔人は素に戻って舌打ちを。


 吾代が密かに突っ込みの呟きを漏らす。

「…ふつー、逆じゃね?」



―アレコレ教わんのは、ガキの探偵の方、だよなぁ…フツー―


 ネウロの台詞に、ほんの少しひっかかる、釈然としないものを感じたのだ…

 そんな心の呟きが聞こえたものか、ネウロが弥子をからかいながらも、肩越しに吾代を注視していたことを、吾代は迂闊にも気付けなかった。



「…まさかと思うけどよー…
 もしやオメー、アレか?」

 吾代の言わんとする言葉に、魔人の瞳がすうっと鋭くなるのを、弥子は見てしまう。



「童て…」

 言うが早いか…



 ゴッシャアアァァン……!!


 ものすごい衝撃音が響き、吾代は事務所の外に吹き飛ばされていた。



「…やかましい」
「…………」

 まさに一瞬の出来事で、ネウロがいったいどのようにして、自分の後ろに居た吾代を吹き飛ばしたのか、弥子にはさっぱりわからなかったが。
 吾代の言わんとしたことと、それがどうも図星であるらしいということだけは、わかった。







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