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14 〜問う者〜 03
『嬉しくたって
泣くんだよ…』
この短いことばが、今の我が輩にとって何と魅惑的であることか……
「ヤコ…貴様は嬉しいのか」
それが何故であるか…とうに知っていても…
「………」
小さく頷く。
想いが示される。
…それがことばでなくとも、今は構わない。
再び顔を寄せ、ヤコの唇に喰らい付いてやる。
…今度は苦しくならぬよう。
口付けながら耳のあたりを撫でつければ、からだは容易く弛緩し、ヤコの唇は我が輩という異質なモノの侵入を容易に許す…
思えば我が輩は、ヤコが風邪をひくなり、大怪我をするなりの時に、ヤコの肌に触れてきたが……
あのときにしたことと、大きな相違はないように、思えなくもない。
対象が唇というだけで、重さが、感慨が随分と違うものなのだ……
…アカネが、そのようなことを云っていたか…
唇は、特別であると……
『堕ちてってもいいよ…
あんたとなら堕ちていける』
先程聴こえた『声』
希んだこと
希んだもの
ただひとつの…
求めるものは、互い…
……陥れてやる筈が……
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