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12 〜問う者〜 01
この状況のヤコに付け入ろうなど、そのような浅ましい思惑はなかったのだが…
はじめて『味わう』ヤコの深みのひとつは、思った通り、厄介な程に我が輩を惑わす…
その様はどうせヤコには見破られるのであろうが、目の当たりにされるのも癪であった。
髪を弄ぶふりをして、ヤコの視界を遮るが…
今のヤコの表情を見たい誘惑の方が、何としても勝り、我が輩は手を離し、改めてヤコを見下ろしてやる、と……
ヤコの瞳から、新たな涙が光る粒となって落ちていた。
「………」
…この女の涙は…
否。
感情にどこまでも沿った表情は、ことばは恐らく……
我が輩のみに留まらず、目にした者のこころの膜を、否応なく引き剥がすちからがあるのであろう……
ひとのこころに降り立ち、その為に涙する、我が輩には理解不能な、人として容易そうで実は希有な、ヤコの『ちから』を併せて考える。
だとするならば。
他の男の前で泣いたヤコをどれだけ憎らしく思おうと、そのヤコの資質そのものを禁じ封ずることなど…出来ぬのだ……
…何というジレンマであることか…
…だが、今のヤコは…?
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