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06 〜誤魔化す者〜
何を謝るのかわからんと言いつつも我が輩は、ヤコの瞳から溢れ続ける涙を…指で拭ってやる。
ヤコに…触れてやる…
……今の我が輩を、ヤコは見抜きはせぬか……
我が輩は今、あからさまな嘘をついた。
ヤコよ。
貴様が何を謝るのか
貴様が何故泣くのか
我が輩にはよく解っているのだ。
あぁだがしかし…
今になって我が輩は、かつてヤコが何故ああまで我が輩を拒絶したのかも、解ったのだ……
かつてならつまらぬことと笑い飛ばしたであろう…
何かに執着し惜しむ想いも…それ故、下等生物の筈の人間にすら本気で憤る感情をも……
だからヤコよ……
我が輩の嘘を見破るな。
我が輩の嘘を…たとえ知ったとて、その唇で指摘するな…
人間より遥かに勝る筈の、魔人たる我が輩の理性を…狂わせるのだ貴様の声は…
貴様そのものは……
だが……
思いとは裏腹に、止まらぬ涙を、我が輩は顔を寄せて吸い取ってやる。
涙は塩辛いと聞いたが…我が輩にはわからない。
以前、ヤコの涙の跡を舐め取ってやったときと、『味わい』が違うような気がされた……
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