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03 〜惑う者〜 01
ヤコが案の定取り忘れた事務所宛ての手紙を回収し、我が輩は階段を上る。
逃げ出したあの時、ヤコはここではなく自宅に向かうのではと一瞬思ったが、何のことはない、真っ直ぐ事務所に戻っているようだ。
ならば、ここでどうにかせねば、ヤコは我が輩に一生顔向けが出来ないなどと思い詰めるであろう。
…溜息がひとつ…
辿り着きドアを開ける。
見渡せる辺りには…誰の姿もなかった。
ただ、
『おかえり!
どうしたの?
ネウロ様はさっき出て行かれたけど、会わなかった?』
…の文字の前で、アカネがペンを持ったまま、戸惑った様子でゆらゆら揺れているのみ。
何故だか可笑しさがこみあげる…
我が輩はヤコの落とした荷物を、投げ出されたとしか思えぬヤコの学校の鞄の隣に置き、
「…何でもない」
と、アカネには何の解決にもならない一言を放ち、給湯室に向かった。
グラグラと煮沸音。
それに紛らわすかの如くの、微かな嗚咽。
「ヤコ」
ひとこと呼び掛けるが、反応はない。
「ヤコ…」
腕をのばし、ガスの火を止める。俯いていたヤコは、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
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