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〜看る魔人〜 10

 交錯する我が輩の意識を揺り戻したのは…ヤコの規則的で安らかな寝息、であった。


 ……いつの間にやら眠りに落ちていたか……


 顔を覗き込むと、赤みがだいぶ引き、先程までの苦しげな様子は消え失せている。

 我が輩は、首に絡みついたままのヤコの腕を注意深く外し、布団の内におさめた。





 安堵する我が輩と

 惜しむ我が輩と

 我が輩の胸の内など何も知らず安らかに眠る女と……



 額に手をやると、熱は幾分下がっていた。
 思わず眦に軽く口付けて、我が輩は深い溜息をつく……







 ……この有様では……

 我が輩はいつまでも待てないかも、しれぬ……


 我が輩は…いつまで、待てるのであろうか……?



 だが……

 ……ヤコがいつものヤコに戻りさえすれば………





「……奴隷の分際で……」

 思わず口をつく、悪態のことば。

 それは、八ツ当たりであることは重々承知しつつも…



 ヤコは

 …いつでも無作為な言動で我が輩を心底呆れさせ…

 そして…無作為な媚態で我が輩を翻弄する…

 小憎らしいにも、程があろう…



 もう一度、その小憎らしい顔を覗き込んでみる。





 ヤコの唇は…

 我が輩の名の綴りを再び、紡ぎ出す……





 ……貴様は……


 ゆめでもうつつでも、どちらであっても……


 この我が輩に…なにがしかを想う者で、あったのか……?









[*前P]

あきゅろす。
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