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〜きっかけ〜 01

「…実際のトコどーなんだよ、オメーらは」

 たわいない話の途中、唐突に吾代が問う。

「ふぇ?」
 紅茶を一口啜った弥子は、間が抜けたとしか思えないような返事をした。


「実際のとこー…もうデキてんのか? てめーら」

「…ぶっ!!」
 弥子は紅茶を吾代の顔に盛大に吹きかける。

 トロイで書類に目を通していたネウロも、「ム…?」とばかりに、吾代達の方に目を向ける……







 ここは、
『桂木弥子魔界探偵事務所』



 普段は出向中の吾代(非常勤/雑用)だが、今日は『謎』を求めるネウロの脅迫紛いの催促に負け、仕方なしに大量の書類を持ち、久々に事務所に赴いていた。


 用件は吾代が書類入りのダンボールを持ち込んだだけで済んでしまう。吾代は、事のついでに事務所の有能超絶美人秘書の淹れた紅茶を堪能していた…

 そんな休息のひととき。

 …に、この発言だ。


「なななな…なによ吾代さん…いきなり何?! ソレ?」
「?」

 雑用は紅茶を吹きかけられたことには敢えて触れず、袖で顔を拭きながら、2人と髪一房…特に弥子とネウロを交互に見比べる。

「『何なの?』…って、言葉通りだろーが。
 気になんじゃんかよ、てめーら見てっと」
「だから!どーゆーことよ!!」
「ム…???」

「俺の知ってる限りのてめーらの日常ってよ…」

 吾代は、叫ぶ弥子を見つつ、ネウロを指差す。

「探偵は毎度毎度、俺でさえかわいそーだと思っちまう位ぇ酷ぇ扱いされてんじゃねーか。
 よく逃げ出さねーと感心さえすんだよな」
「う…」
 弥子は返す言葉がない。


―他人から同情されちゃう、あたしの立場って…―


「なのに現場にはいつも2人揃ってるらしーじゃんかよ。
 不思議じゃねーか?ソレ。

 …てことは、だ。
 見たまんま探偵はドMで、化け物はドS…と同時に2人揃ってツンデレだったりしてな。
 見えるトコではドSプレイとしか思えねーコトしてやがるテメーらも、実は俺らの見てないとこでは……」

「ふ…っざけんなーっっ!!」

 青年らしいといえばあまりにそれらしく、あんまりといえばあんまりな妄想を遮り、弥子は叫んだ。

 すると、
「ほぅ…ご主人様を指差すとは良い度胸だな、雑用」

 続く、圧倒的な威圧感を持つ低い声。
 話の内容に興味を示したらしく、立ち上がり、ツカツカと弥子の座るソファの後ろにきた。

「え…あ、イヤこれは場のノリでよぅ…」
 ついつい、しどろもどろになってしまう雑用。

 そして、
「ネウロっ!! この際そんなんどーでもい……ぶべっ…!!」
 叫ぶなり、ネウロに頭をわし掴みにされ、そのままテーブルに顔面をしたたか打ちつけられた哀れな少女…


 目を回した弥子の背に、ネウロはゆったりと腰掛け、

「…で?」

 話の続きを、促す。


 雑用は命の危険を感じつつ、指差す先をネウロから弥子に移した。

「ほ…ホラ…な。
 こんな具合なのに、探偵と助手やれてるって、ありえねーだろフツー?
 てめーらは、ドSプレイしてっか、やたらめったらベタベタしてるトコしか見ねーよ。
 デキてっとしか思えねーんだよな、実際…」
 恐る恐る、だがしみじみと雑用は語る。

「ぜ…ぜったいありえない…そんなことありえない……」
 弥子はうわごとのように、雑用の言葉を否定するのみ…







[次P#]

あきゅろす。
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