てのこう(綾都×梼) 「…あれっ? 緑のiPodがない…?」 鞄をがさごそと漁りながら、梼は首を傾げた。 自分で買ったものと、姉に買って貰ったもの、両親に買って貰ったもの。全部で三つも持っている音楽プレイヤーを、梼は音楽をジャンルごとに住み分けて使っている。 …ピンクがBLCD系、青がアニソン系、緑がボカロ系……と、全てオタクな分類なのが何とも彼らしい。 作業用BGMでミクを流そうと思ったのだが、何故か鞄の中には見当たらない。 鞄の中をひっくり返すが、教科書と参考書に擬態した同人誌が転がるばかり。首を傾げた梼は、(勝手に)部屋に遊びに来ている綾都を振り向く。 「ねー綾都せんぱーい、俺のiPod見てません? 緑のー」 「んっ? …あー、借りてるよ〜」 「…って、聴いてるし!」 悪気のない笑顔でひらひら手を振る綾都の耳には、梼愛用のイヤホンが入っていて、そのコードの先には探していた緑色のiPod。盗難事件の犯人発覚。 …まぁ中にはネタ曲も入っているが、とりあえずピンク色のじゃなくてホントに良かった。 「…もー、勝手に人のモノ漁らないで下さいよ! 特に俺の私物は、色々他人に見られたらヤバいモノが多いんですからっ!」 などと、自ら豪語してしまう辺りが梼の梼たる所以である。 ぷりぷりと怒りながら此方へやって来た梼に、綾都はにこりと笑う。 「?」 綾都の不意の笑みに瞳を瞬かせる彼の足元に跪き、恭しく手の甲を取って軽く口付け。 「…お姫さま」 「…へ?」 囁くように唇に載せた言葉に、梼は大きく目を見張った。 そんな表情を可愛いと思って見つめながら、綾都は更に言葉を続ける。 「世界で僕だけのお姫さま」 「…WIMですかいっ!?」 やっとネタの意味の分かった梼が思わず声をあげる。 かしずいて手をとって「おひめさま」って。ボカロの代表曲とも言えるその曲のネタは、綾都にあまりにも似合い過ぎていてある意味怖い。 ぶるぶると首を振る梼に、綾都は肩をすくめる。 「あれ? 気にくわなかった?」 「気にくわないって言うか……綾都先輩はハマり役でも、俺が姫とか色々有り得ないっしょ…」 「そんな事ないよ。…歌に便乗とはいえ、俺本気だからさ」 「うぇっ?」 にこりと笑うその表情は、いつもの人当たりの良さそうなおっとり王子様の顔ではなく、一人の雄として梼を求める男の顔。 かあっと頬を赤らめた梼の手の甲に唇を寄せつつ、綾都は口角を吊り上げた。 …俺の方に惹かれるでしょ? てのこうにキス -------------------- 三周年企画、綾都×梼編。まさかのボカロ曲ネタ(笑) 有名なあの曲モチーフ、アナザーネタもちょろっとw 綾都先輩は梼に影響され、着々と間違った道に踏み込み始めているようです(爆) まずはボカロ耳を鍛えるところから!w ← 10/12/29 ≪ ≫ [戻る] |