side.アスファルトに咲く花 どうぞ、とあまりにナチュラルに可愛らしい小箱を差し出された為、龍治は微かに目を見張った。 「…これは?」 「今日はバレンタインデーでしょう?」 「あぁ…」 答えた唯人はあくまでいつもと変わらぬ様子。 今日が何の日であるかくらいは龍治にも理解出来ていたが、唯人が何でもないようにそれを実行してくるからつい驚いてしまった。 どうして唯人はこう、恥じらう事が少ないのだろうか。恋人になって初めてのバレンタインなら、もう少しはにかんでみせてもよさそうなものなのに。 「…龍治?」 「…、あぁ、ありがとう」 思わず箱を差し出したままの唯人を凝視してしまっていたが、彼からのプレゼントを受け取らない理由はない。 素直に嬉しい事は事実なので、礼を言って受け取る。 すると唯人はふわりと嬉しそうに微笑むものだから、不覚にもツボにハマって受け取った箱ごと抱き寄せてしまう。 「わっ…」 「…やっぱり可愛いな」 腕の中に収まって大人しくしている唯人に触れるだけのキスを贈り、躰を離す。…このまま唯人ごと美味しく頂いてしまいたい気持ちもあったが、まだ多少の理性は残っていた。 潤みがちな漆黒で此方を見上げる唯人に、気をそらす為にも訊いてみる。 「…中身は何だ?」 「懇意にさせて頂いている和菓子屋さんから作り方を教えて頂いた、生チョコ餅です。生物ですから、早めに召しあがって下さい」 答えに、自分が判断を誤らなくて良かったとホッとする。 お茶を淹れて来ますね、とキッチンへ向かった唯人を見送り、龍治は手の中の小箱を見つめた。 「…一ヶ月後は、どうしようか」 そっと呟き、緩やかに笑った。 とりあえず、今日の“お礼”は決定済み チョコ渡すだけなら、唯人は照れないでしょう。逆に龍治が内心キョドります(笑) 表には出ないですけどw 普段からお菓子だの何だの作る子なので、何の迷いもなく手作りで。生チョコ餅食べたいなぁ…(笑) ++++++++++ にっこりと輝かしいまでの笑顔で(それはもう、思わず見惚れるくらい!)、右手を差し出され、明良はぽやんと恋人を見上げた。 「…ふぇ?」 「チョコ、あらへんの?」 微笑んだままに問われたが、明良はその言葉を解するまでに数秒かかった。 「…あっ、あぁ、チョコ? うん、あるよ」 言われるままに箱を取り出しかけ、ハッとした様に頬を朱に染めた。 「ふぁっ!?」 「どうした? あるんだろ、チョコ」 うにっ、と熱を持った頬を指先でつつかれたが、明良は戸惑ったように利也を見上げた。 「えっ、ていうか俺がチョコ渡すのは前提なのっ?」 「当然。恋人だろ、俺たち」 「こっ…!?」 さらりと肯定されたその理由に、明良は更にその顔を染めて固まる。 いや、彼の言うことは何も間違いではないし、全てその通りなのだけど。いや、だからといってそんなにきっぱり言われてしまうと恥ずかしいのは別問題な訳で。 顔を真っ赤にしたまま固まる明良を、利也はまた指先でつついて遊んだ。 「…で?」 「あ、ぅ…うん。…あんまり…、美味くはないかもしれないけど…」 催促されて出さない訳にはいかない。…催促されなくても、作ってきた以上は渡さなければいけないけれど。 「最初は唯人と作ろうかと思ったんだけど…、アイツなんかやたら難しそうなの作ってたから…」 市販のチョコレートを悪戯に溶かして型に入れ固めただけという、何処が“手作り”なのかよく分からない極めて初歩的な手作りチョコレート。 歪な形のこれが明良の精一杯な訳だが、…やはり不格好なこれをいざ渡すとなると恥ずかしい。 おずおずと利也を見上げれば、彼はとても優しい瞳で此方を見下ろしていた。 「普段お菓子なんて作らない明良が、俺の為に作ってくれた、ってだけでそれには絶対の価値がある」 有りきたりだけどな、何て微笑む顔があまりにも綺麗で。…それが更に、“自分だけ”に見せる表情だと知っているから。 思わず、感極まって涙腺が緩んだ。 「…っ…、ありがと…!」 「いや、それは俺の台詞……ってオイ泣くな!」 こんなに倖せになれるのも、今日が特別な日だからかな? 明良はキョドりにキョドって恥ずかしがるタイプですね(笑) そして利也は寧ろ見てるこっちが恥ずかしくなるタイプ(爆) 明良は我が家の“平凡”の中では最も“普通”に近いので、お菓子作りなんて全く慣れてません。…でも頑張ったんですよ、カレシの為に!(笑) ≫ [戻る] |