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机の上のルーズリーフ

俺、辻川旭(つじかわ あさひ)には最近不可思議な出来事が起こっている。


「…また入ってるし…」


…机の中に、覚えのないルーズリーフ。





俺は所謂不良生徒で、授業を受けるのがかったるいと思う類の人間である。

そんな訳で、基本授業はサボりまくり。お陰で去年は進級スレスレだったが、改める気にはなれなかった。

で、俺がそんな風に授業をサボって教室を不在にしている間に、その不思議現象は起こっているのだ。


「なーにアサヒ、またご丁寧にノート入ってたん?」
「入ってた。二限の物理と三限の古典」
「うぉっ、相変わらずスゲェ。こんな綺麗なノート、どうやったらとれるわけェ?」


ツレでクラスメイトの英(ひで)にソレを見せれば、感心してんだか冗談言ってんだか微妙な返し。

…そう、授業をサボった俺の机に最近、必ずと言っていいほど入っているソレ。ソレは、俺がサボっていた間の授業のノートだ。

しかも書道でもやっていたかのような綺麗な字で、要点は赤や青のペンで綺麗に分かりやすく書き分けた、ご丁寧で良く出来たノート。

初めはどっかのバカな真面目クンが机を間違えたのかとも思ったが、こうも続くのなら相手は意図的にやっているのだろう。
何せ、俺らが二年に進級してから約一ヶ月、この現象は続いているのだから。


「てかさぁ、ホントにアサヒ心当たりないワケェ? 毎回毎回ご丁寧にノート取っといてくれるオトモダチにさぁー」
「ねぇよ。…クラスで連んでんのお前くらいなのに、ある訳ねぇだろ」
「だよねー、アサヒ友達いねぇもんねー」


何か腹立つ言い方だな。…ゲラゲラ笑う英の腹にとりあえず肘鉄を入れ、呻くヤツを無視して俺はルーズリーフを眺めた。

…ホント、惚れ惚れする程綺麗な字と、それですっきりと纏められたノート。


(…どこの物好きがやってるんだか…)


教室を見渡すが、誰とも目が合う事はない。不良でサボりまくりな俺らは、クラスから浮いているのだ。

俺の席は、窓際の一番後ろという特等席。やっぱり怪しいのは、隣接する席のヤツだろうか。


(…っても、知らねえヤツだしなぁ…)


去年クラスが同じだった訳でもねぇし、そもそも俺クラスのヤツらにあんま興味ねぇし。

とりあえず本を呼んでいる隣の席のヤツを見ていれば、ふとページから顔を上げたソイツとぱっちりと視線が合う。


(…あ)


さらさらと切り揃えられた黒髪の、特別目立ったトコロのない生徒。ピアスも開けていないし、制服も着崩していない。

俺とは正反対な、そんなヤツ。

数瞬だけ目が合い、やがて相手の方から視線が外された。


「…ん? アサヒどしたん?」


いつの間にか復活していたらしい英に訊かれ、俺もまた隣のヤツから視線を外した。


「…別に」
「あそ。…ってかそろそろチャイム鳴るけど、次どうする?」
「あー…いちお受ける」
「そっかー、んじゃ俺もそろそろ戻るー」


あまり使ってない自分の席へと戻る英の背を見送ると、ちょうど良く次の時間のチャイムが鳴った。


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