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ハーディー家のお歳暮

あと数日で年の瀬、そして年明けを迎える、どことなく周りが慌ただしいある日。

アカデミーの年末年始の休暇で実家へと戻っていたエリオットは、書斎で本を読んでいた所を顔を出した長兄に呼びかけられた。


「おい、エリオ。仕入れの荷物の中に、お前宛ての荷物が混ざってたんだけど」
「荷物?」


これといって心当たりのないエリオットは、読みかけの本に栞を挟んで立ち上がる。

エリオットの実家であるロッド家は商家を営んでおり、毎日様々な地方から仕入れた商品が届く。特に数年前に家業を継いだ長兄、ラティオの代になってからはじわじわと事業を拡大しているらしく、扱う商品の種類も増えてきたようだ。

が、未だ学生で未成年の身であるエリオットは家の商売にはほとんど関わっていない。そんなエリオットに、一体誰から荷物だというのだろうか。

長兄が差し出した木箱を受け取ったエリオットは、思わず首を傾げる。箱が妙にヒンヤリとしている。


「何でこんな冷たいんだ、これ」
「俺が知るか。それ、誰からの荷物なんだ?」


兄の問いに箱に記された差出人の名前を確認すると、相手の名前は意外な、けれどエリオットのよく知る名前だった。


「アリアから……?」


差出人の名前は、アリア=ハーディー。エリオットの可愛がっている雛鳥で、恋人である。

しかし相手は分かったが、荷物の中身には心当たりがない。首を傾げたエリオットは、その場で木箱を開けた。ラティオも興味があるのか、一緒に中身を覗き込んでくる。


「……果物?」
「…と、何だこれ? ハム?」


何らかの魔法で冷気が込められたのだろう箱の中に詰められていたのは、綺麗に並べられた見たことのないオレンジ色の果物と、自家製らしいひとかたまりのハムだった。

エリオットはますます首を傾げる。何故アリアが、自分宛てに食べ物を贈ってくるんだ?


「うーん? この果物……」


少し歪な形をした果物を一つ手にして考え事を始めた兄の隣で、エリオットは魔法を展開した。

自属性である炎属性の魔法ではなくて、遠話と呼ばれる特殊魔法に含まれる術の一つである。一年生のアリアはまだ習っていないかもしれない魔法だが、交信する相手も魔力を持っているならば此方から強制的に繋ぐ事が可能だ。

精神を集中させ、術式を組み上げる。突如展開された魔術にラティオが目を白黒とさせているが、エリオットは構わずに術を完成させた。


「…アリア?」
『……リオ? どうして?』


エリオットの足元に展開した魔法陣の向こうから、聞き慣れたアリアの声が聞こえた。突然術が展開したから驚いたのだろう、いつもより戸惑ったような声にエリオットは笑った。


「遠話だ。知らねえか?」
『遠話……、あ、そっか』


術の存在は知っているらしく、納得したように頷く声。あまり長い時間は魔法を繋いでいられない為前置きはほどほどにして、エリオットは早速本題に入った。


「ところでお前から俺宛てに荷物が届いたんだけど、あれ何だ?」
『…あ、届いたんだ』
「届いたよ。ありがとな。で、あれ何?」
『ん、オセイボ……』
「オセイボ?」


聞き慣れない言葉に、エリオットは首を傾げる。

エリオットは知らなかったが隣のラティオは聞き覚えがあったらしく、あぁ、と手を叩く。


「オセイボ…っつーと、確か東方の文化だっけ。世話になった人とか親戚に、挨拶と感謝の代わりとして何かを贈るっていう……」
「へぇ」
『……だれか、一緒にいるの?』


エリオットの他に知らない相手の声が聞こえた為か、アリアの声がやや堅くなる。

エリオットは相変わらずのアリアに苦笑いして、大丈夫だと声を出す。


「兄貴が隣にな。今、実家だから」
『……そっか』
「で、オセイボはいいけど、この中身はなんだ? 見たこともない果物なんだけど」
『ウチの裏で採れたの。おいしい、よ?』
「あー、そっか」


知りたいのはどこで採れたかではなく、果物の種類などの仔細だったのだが、アリアには質問の意図が若干ズレて伝わってしまったらしい。


『…ハムは、この前ウチで作った、ドラゴンのハム』
「あぁ、それはそんな気はしてた」
「ドラゴン!?」
「兄貴うるせぇ」


ハムの方は、以前アカデミーにドラゴンが出た際、アリアがエリオットにドラゴン肉の料理を振る舞ってくれた後に作っていたドラゴンの塩漬け肉に雰囲気が似ているな、と思ったのだ。あの時は保存用に塩漬けにしただけだったが、家では設備が充実しているのか燻製にまでしてあるようだ。なかなか美味しそうである。

ドラゴンと聞いて隣で兄がギョッとして声をあげていたが、それは軽く一蹴した。


「これも美味そうだ、ありがとうな」
『…ん』


エリオットが礼を言うと、嬉しそうな声で頷くアリア。


『…くだものも、おいしいから食べてね』
「あぁ、ありがとうな」


言うと、アリアはきっとまた笑った。エリオットの遠話ではまだ映像までは送れない為、あくまでも声からの想像に過ぎないが。

そろそろ術も切れそうだったので、お礼とまた新学期にという挨拶だけ残して魔法を切断すると、兄がやっと思い出したというように声をあげた。


「そうだ、『月のたまご』だ!!」
「は?」
「この果物! ほんの一部の地域でしか採れない珍品で、仕入れ値でも一個十万以上もする奴だ!!」
「へー…、すげぇな」


興奮した様子のラティオに、エリオットは瞳を瞬かせて箱の中に並んだ果物を見た。こんな握りこぶし一つ分くらいの大きさの果物が、十万もするとは。アリアは家の裏で採れたと言っていたから、元手はゼロなのであろうが。

アリアが規格外なのには最早慣れてしまったエリオットの反応は淡々としたものだったが、ラティオは商人の血が疼いたのか興奮気味でエリオットを見たあと、その足元から魔法陣が消失しているのに出鼻を挫かれたような声で言った。


「あれっ、エリオさっきの魔法もう切れちゃったのか?」
「兄貴には分からないだろうけど、あれ結構労力使うんだよ。時間も5分ちょっとが限界」
「また繋げない?」
「無理」


繋がりさえすれば距離を全く気にせず直接会話が出来る便利な魔法なのだが、その分使用するコストは高い。一気に疲れてしまったエリオットは欠伸をし、読書は中断して昼寝でもするかと伸びをした。


「エリオ、待った! さっきの子から『月のたまご』をウチに卸してくれないか訊いてみてくれ!」
「…気が向いたらな」
「それ絶対気が向かない声だろ! 兄ちゃんには分かるぞ!!」
「俺、ちょっと昼寝するわ。果物は夕飯のデザートに食おうな」
「おい! エリオ!!」


兄の追及をかわして自室に戻ったエリオットは、まだ知らない。この件を断った事で、年末年始別件の兄の商談にいくつも付き合わされ、各地を駆けずり回らなければいけなくなる事を。


「あー…、新学期になったら、また何か菓子でも土産に持ってってやるか」


呟いて、エリオットはまた一つ欠伸をした。













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アリアからのお歳暮のお話。さらっとエリオの上の兄ちゃん登場。魔力はないけど、商才には長けたやり手商人のラティオ兄ちゃんです。


アリアの出身は『最後の秘境』とか言われる全体的に規格外な地方で、一般には超貴重な果物やきのことかが裏山に無造作に生えてたり、馬屋にペガサスだかユニコーンだかの幻獣を飼ってたり、普通食べようとは思わないドラゴンやミノタウロスなどを狩って食べたりする独自過ぎる環境です。

幻獣やら精獣やら魔獣やらがわらわらしていて植物も非常に貴重なものが多く自生してる場所なんですが、未だその環境を利用しようとする人間の開発の手は入っていません。何故なら村人はみんなたった2、3人のグループで魔法無しでドラゴンを易々仕留めるような猛者だから。敵いません。村人全員モンスターハンター(笑)

アリアは一人っ子で、一方エリオは既に家を継いでる兄がいる末っ子なので、エリオがアリアの家に婿入りする形になるんでしょうね。大変だな、エリオ(笑)


そのうちエリオのアリアの故郷訪問話も書きたいですねーww


13/12/11〜14/1/9(拍手掲載)

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あきゅろす。
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