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蒼月の夜

ウンディーネ寮のヘンリーの自室に連れ込まれたセインが彼のベッドでうとうととしていると、部屋の主に肩を揺すられゆり起こされた。


「ん……」
「セイン、起きて」
「…何? ぅ、まだ、だるい」


何故身体中が怠いのか、そもそも何故ヘンリーの部屋に連れ込まれそのベッドで寝ているのかは推して知って欲しいが、普段ならばヘンリーもセインの隣に寝ていて、わざわざ揺り起こしたりはしない筈だ。

重い身体を持て余しながら何とか首だけをもたげると、此方を覗き込んでくるヘンリーの美麗な顔。最早見慣れた筈のそれにもセインは思わずギクリとしてしまい、再びベッドの上に沈んだ。


「起きてよ、セイン」
「う……、だから、何?」


同じ言葉を繰り返すヘンリーに、セインはもぞもぞとシーツを手繰り寄せながらそれだけ訊いた。

出来ればまだ起きずに、ゆっくりと寝ていたい。周りは薄暗くて、まだ夜中だと思われるから余計にだ。

口を開くのすら億劫でそこまで言葉には出さないが、ヘンリーにはセインがまだ起きたくないという気持ちが伝わったらしい。精巧な作り物のようなその容貌に、唇を尖らせるという幼い表情を乗せる。


「セイン。もうっ、起きて」
「…うー…」
「今起きないと、明日完全に起きられないようにしてしまうよ」
「…う」


背筋にぞわりと響くように甘く囁かれた言葉は、けれどもとても恐ろしい。

彼のそのお上品な見た目に似合わない鬼畜振りを身をもって知っているセインは、思わず声をあげて固まった。

ヘンリーはやると言ったらやる男だ。寧ろ先程口にしたような事柄ならば嬉々としてやるに決まっている。身体にこれ以上の負担をかけたくないセインは、のそのそと緩慢に起き上がった。

起き上がったセインを見て、ヘンリーはにこりと笑う。


「やっと起きてくれたね」
「……まだ夜中じゃない。どうしたの、本当に」


改めて部屋を見回しても、家具の形くらいしか分からない程度には薄暗い。そのくせ、近くにいるヘンリーの表情はよく見えて……。


「あれ?」


よく考えれば、ヘンリーの表情だけがよく見えるのはおかしい。寝惚けた頭で再び周囲を見回すと、ベッドの周りだけが他よりも明るいのに気付いた。

ゆるゆると瞬きをするセインに、クスリと笑ったヘンリーが窓の外を指差す。

地下にあるノーム寮にはない、大きな窓。カーテンは大きく開かれ、更に両開きの窓も開け放たれている。

外の景色を切り取ったように存在している窓の、その真ん中には、大きな蒼い月。


「今夜は蒼い満月なんだよ」
「……綺麗」


ぽかん、と口を開いて窓の外を見つめるセインに、ヘンリーは悪戯っぽく笑う。

そう言われてみれば、毎年この時期だけは月が蒼く見え、特にその満月は美しいと言われているのだった。ノーム寮には基本窓がない為か、そういった事が話題に上がらずすっかり忘れていた。


「ほら、せっかくだからお月見しよう。私のお膝においで」
「…………」


ベッドの上に座り、ぽんぽんと自分の膝を叩くヘンリーに何とも言い難い気持ちになるが、なんだかんだセインはその誘いを断る事は出来ないのだ。

結局いつものようにその膝の上に収まり、窓の外を見上げる。


「……綺麗だねぇ」
「……うん」


しみじみと呟く彼と、美しく蒼い月。


見た目だけは、ヘンリーと少し似ている。なんて言葉は、当然口には出さずにそのまま喉の奥に呑み込んだ。















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ヘンリーとセインでお月見のお話。

エメラルド世界では、蒼い月は恋人と眺めるロマンティックなものですww 基本エメラルド世界でも月は黄色く光るんですが、9月から10月くらいにあたる時期だけ蒼く見えるとか。ファンタジーですね(笑)


13/9/3〜10/3(拍手掲載)

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