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* * *
チューハイを二缶、発泡酒を一缶呑まされた依月が、ソファーでうとうとと船を漕いでいる。
酒に強い人間なら呑んだうちにも入らないくらいの量だが、これくらいが依月の限界値だ。俺は愉しげに酒を進めている圭也をとどめ、依月の為にベッドから薄手の毛布を持ってくる。
「ん…、惣……?」
「起きてたのか。もうベッド行くか?」
「んー、もうちょっと…」
寝惚けているのか酔っているのかその両方か、弱々しい手が俺の袖を引く。
と言うか、改めて反芻してみると今のも若干際どく聞こえる会話だな。なんて思う俺も、酒が入って多少思考が飛んでいる。
テーブルに残った柿の種をバリバリと食べながら、圭也がケラケラと陽気に笑った。
「やっぱ依月、かわいーじゃん。…女の子だったら、俺も思わず手が出ちゃうような気もするわー」
「……圭也」
こいつはこいつで酔ってるな。量的には三人の中で一番呑んでいるからな。
女の子じゃなくとも手を出したいと思っている俺はため息を吐き、酔いを飛ばす為にもテーブルの上にあったミネラルウォーターを煽る。
「……僕も」
「ん?」
「僕も水、ちょうだい」
「…あぁ」
酔っているからかとろんとした瞳と赤い頬、舌足らずな声。
一瞬その仕草にドキッとしてしまったが、俺は頷いて手にしていたペットボトルを依月に渡した。
こくこくと水を嚥下する喉。依月は色が白い。そのまま彼の隆起の少ない喉仏を指でなぞりたいという衝動にかられ、俺は依月から躰を離す。
「……」
「……惣?」
僅かに潤んだ瞳から目を逸らす。
振り返るとさっきまでご陽気だった圭也ですら船を漕ぎ出しており、俺はため息を吐いた。
「俺だって、寝落ち出来るならしたいんだが」
「…一緒に寝る?」
半分夢の世界に入っているらしい依月が、ぽふぽふとソファーの横手を叩く。……滅多な事を言わないでくれ。本当に、理性が保たない。
「圭也、一旦起きろ。お前らまとめて寝室に移すから」
「…あー? 俺はいいよ、帰るから」
「……帰らなくていい。帰らないでくれ」
腐れ縁相手に、こんな嘆願をする羽目になるとは。
寝惚け気味だった圭也は、けれど不意に響いた携帯の着信音にビクッと肩を揺らした。
――ダースベーダーのテーマ。……これは確か、ヤツのバイト先からの着信音じゃなかったか?
ごそごそとポケットを探って携帯を取り出した圭也が、ピッと通話ボタンを押した。
「もしもしー? ……あぁ、店長っすか? ……はぁ、今から? いやでも俺今酔ってますけど…………納品だけだから大丈夫だって? …いやいや」
いやいや。本当に、いやいや、だ。
圭也のバイト先はこのマンションからもほど近い駅前のコンビニな為、ヤツはこうして気軽にバイト先から呼び出される事が多い。
それは知っている。だが、今は行くな。
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