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二週間程前からクッキーの研究を続けているので、もう生地を作るのは手慣れたものだ。さくさくと甘さの違う二種類の生地を練り、完成を急ぐので少し短めの時間、冷蔵庫で生地を寝かせる。

その間にマスターが一人だった間に溜めておいてくれたカップなどの洗い物をバイトらしく片付け、ちらほらと入り始めたお客様に呼ばれて注文を取りに行ったりする。

その間惣は、窓際の席でコーヒーを飲みながら教科書を開いていた。課題だろうか、真面目だな。

働いているうちにセットしていたタイマーが鳴り、僕はマスターに一声かけて再びバックへ戻る。


「……さてと」


甘い方の生地の上に粉を篩って、クッキーの型を抜く。色んな形があると見栄えもいいんだけど、都合により今は丸い型だけだ。正式にメニュー化がされるなら、もう少しバリエーションを増やしてもいいかもしれない。

型を抜いたクッキーはクッキングペーパーを敷いたトレイの上に並べて、オーブンへ入れる。一方を焼いている間に、もう片方の生地も型抜き。


「お、いい匂いだな」
「マスター」


最初のクッキーがそろそろ焼ける、という頃になってマスターがちゃっかりと顔を覗かせた。

僕と一緒にオーブンの中を覗き込み、マスターは客席の方を指差す。


「このいい匂いが、表の方まで漏れてるんだ。常連さんに『これは何だ?』って訊かれちまったから、依月、お前これお友達にだけじゃなくて店にいる他の常連さんにも出してやってくれよ」
「あー……、いいですよ。でもあくまで試作品なんで、美味しいかどうかは保証出来ないですけど」


元々一人前には多い量を作っていたから、配る人数が増えても困りはしない。それに、よりたくさんの人に食べて貰う方が意見を聞ける人数が増えていいかもしれない。

でもやっぱり、まだ試作段階のクッキーを大勢に食べて貰うのはちょっと恥ずかしいな。惣だけだったら、身内だしまだいいかな、って思えるんだけど。

そうこうしているうちにオーブンが焼き上がったとチン!声をあげ、僕は取り出したクッキーを小皿に並べた。


「マスター、今店にいるのは何人くらい?」
「お前のお友達も入れて、五人だな。……あ、俺の分も残しといてくれよ」
「はーい」


それなら、全部で六皿。

僕がする味見は、型抜きの時に余った生地を丸めて焼いた歪な形のクッキーで済ませる。とりあえず焼き加減は悪くない、筈。

盛り付けをしながらもう一種類のクッキーの焼き上がりを待って、一緒に皿に並べた。こっちの焼き加減も大丈夫だ。

甘い方が右で、甘さ控えめなのが反対側。左右にクッキーを並べ、僕はとりあえずそれを惣の席に運んだ。


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